僕は縛られているんです。起上れるものですか」
「それはもう解いたよ。起きろ。起きてこれからすぐ、買物にいくんだ」
丸木は、心得顔に言った。
5 あ、火星の生物!
丸木の言ったことはうそではなかった。まさか起上れないだろうと思って、千二は、ためしに首をもたげた。すると、ちゃんと首が上るのだった。
おやおや、不思議だと思い、今度は両手をついて、上半身を起してみると、なるほどちゃんと上半身が起上った。(あっ、いつの間に、縄を解いたのかしら)
飛起きて、千二は足元を見まわした。彼のからだを縛っていた縄が、そこらに落ちているだろうと思ったのである。
だが、足元には、細紐《ほそひも》一本すら、落ちてはいなかった。まるで見えない透明の縄で、からだを縛られていたようだ。
「さあ、こっちへ来い」
丸木は、大きな声で、千二をよびつけた。
「え、どうするのです、この僕を」
「どうするって、これから東京へいくのじゃないか。東京へ着くまでは、これで目隠しをしておく。あばれちゃいけないぞ」
丸木の言葉が終るか終らないうちに、千二の目は、急に見えなくなった。
「あっ!」
と、千二は、両
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