に悲鳴をあげた。このままこのぴりぴりが続いたら、彼の血管《けっかん》は裂《さ》けてしまうだろうと思われた。
「丸木さん、早く来て……」
 と、千二は、歯をくいしばって叫んだ。
 すると、とたんに、そのぴりぴりが止った。
 湯気の向こうから、誰かのっそりと出て来た。見ると、それは外ならぬ丸木であった。
「なあんだ、人間というやつは、ずいぶん弱いものだなあ、はははは」
 丸木は、笑い声をあげた。しかし千二は、丸木が笑い声をあげているのに、その顔は少しも笑っているような顔に見えないのを、不思議に思った。それからもう一つ、「なあんだ、人間というやつは、ずいぶん弱いものだなあ」などと、自分も人間のくせに、人間の悪口を言ったのを、たいへん変に感じた。
「どうだ、千二。体に元気が出て来たろう」
「えっ」
 言われて気がついた。なるほど、さっきまで、手足が抜けるようにだるかったのに、今はすっかりなおってしまった。そうして筋肉がひきしまって、その場にぴょんと飛上りたいほどの気持だった。
「ほう、これは不思議だ」
 と、千二が目をぱちくりさせると、
「さあ、千二。さあ起きろ、起きろ」
「起きろと言っても、
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