、何ものかで、床に縛りつけられているらしい。千二は、いつの間にか、彼が捕虜《ほりょ》になっていることに気がついた。
 捕虜といっても、あたり前の捕虜ではない。火星の生物が乗組んでいる火星のボートの中に、捕虜となってしまったのである。これから先どうされるのであろうか。このまま火星へつれていかれるのであろうか。それとも火星の生物の餌食になってしまうのであろうか。考えれば考えるほど、不安はだんだん大きくなって来る。こうなると、うす気味わるい男ではあるが、あの黒いものずくめの、丸木と名乗るおじさんを、たよるしかない。
 その時、とつぜん、湯気の向こうに、火花のようなものが、ぱっときらめいたかと思う間もなく、千二は全身に、数千本の針をふきつけられたように感じた。
「あっ、いたい」
 だが、それは針ではなかった。全身がぴりぴり痛むのだった。電気にさわった時の感じと同じだ。いつまでもぴりぴりと痛む。
 ぴりぴりと、はげしい痛みが、千二のからだを、だんだんつよくしめつけていった。
「あっ、苦しい」
 おしまいに、千二はもう息が出来ないくらい、苦しくなった。
「おうい、丸木さあん」
 千二は、遂《つい》
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