ら、すぐに、もよりの交番へ駆けつけるなり、大声でそれを知らせながら火星人と反対の方へ走り、なるべく狭い横町に駆込んで下さい」
 などと、妙な注意が、しきりに放送されたのであった。
 だが、中には、案外そんなことに注意していない人もあった。
 その夜のこと、或るさびしい町の電柱の下に、一人の紳士が、倒れていた。彼は、真赤な顔をしてわけのわからぬひとり言をぶつぶつしゃべっていたから、これは酒を飲んだ酔払であるに違いなかった。
 そこへ黒マントの紳士が三人、ひょっこりあらわれた。三人は酔払紳士のそばに、例のごとく近づいていった。
「あははは、くすぐったい!」
 と、かの紳士の声がしたかと思うと、もう次の瞬間には筋書通りに、紳士の姿は消えてなくなっていた。とうとう火星人にさらわれてしまったのだ。やれやれ気の毒、気の毒!
 そのよっぱらい紳士は、まことに、奇妙な目にあったと、後に人に語ったことであった。それは、彼が、火星人のためにさらわれて行った経験談であった。
 あの時、彼は、かなりよっぱらっていた。だけれど、まだいくぶんは気がしっかりしていた。、彼は、かなりよっぱらっていたこともおぼえていた
前へ 次へ
全636ページ中336ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング