った博士である。
それは、いくぶん大げさにいったのであろうが、それにしても、謎を出した御当人がいなくなっては、たいへん困る。
――大江山課長は、佐々がどんな返事をするかと、目をすえて待っている。
佐々は、課長が、家出か殺されたのかと急な問いをかけたので、鳩が豆鉄砲《まめでっぽう》をくらったように、目をまるくして、しばらくは口がきけなかったが、やがて、ごくりと唾《つば》をのんだ。
「ええええ、そ、それは……」
佐々は、あわてると、つかえる癖《くせ》があった。
「そ、それは――つまり、蟻田博士は、いつの間にか、天文室からいなくなったのです。机の上も、望遠鏡の位置も、博士がその部屋にいるときと、全く同じ有様です。天窓も、あけ放しです。ですから天体望遠鏡にも、机の上においた論文や本のうえにも、露がしっとりおりて、べとべとです」
「ふうむ、なるほど」
「だから、博士は、ちょっと便所にでもいくような工合に、行方不明になったんです」
蟻田老博士の行方不明!
「火星兵団」の謎を解く力のあるのは、自分だけだと、いばっていたその老博士が、とつぜんいなくなったのだ。
佐々刑事が、大江山課長に、今
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