報告したところによると、博士の邸内にある天文室の様子は、ふだんとすこしも変らず、天窓はあけ放しになっていて、机の上にも、望遠鏡にも、露がおりているというのだ。
「博士が部屋から姿を消したのは、何時《いつ》のことかね」
と、大江山課長は、たずねた。
「それは、わかりませんよ。あの邸内には、博士一人が住んでいるだけなんですから、誰も知らないのです」
「ふむ、博士は一人で暮しているのか。じゃあ、食事などは、どうするのだろうか」
「食事は、外に食べにいったり、または、パンなどを買いためておいて、それを出して食べているらしいんですよ。私がさっきいった時も、包紙から、パンが顔を半分出していました」
博士は、よほどの変り者である。
「でも一日のうちには、誰か博士邸をたずねて来る者がありそうなものだ。たとえば、ガスのメートルを見るために、ガス会社の人が来るとか、洗濯物の御用聞がやって来るとか、そんな者が、ありそうではないか」
「さあ、どうですかな。今後の調べを待つほかはありませんね」
「ふうん、そいつは弱ったね」
と、課長は眉の間に、しわをよせて、考えこんだ。
「どうしますか。ラジオ自動車隊へ、
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