言うと、腕を組んで考えこんだ。
「ねえ、課長さん。あの博士は、変なんですよ。変な人の言うことを、本気になって考えていると、こっちもまた変になってしまいますよ」
佐々《さっさ》という、年の若い、顔の赤い元気な刑事が、課長の後へ来て、なだめるように言った。
「うむ、博士は変かもしれないとは思っていたが、それにしても、今の言葉は、変に気になる言葉じゃないか」
「なあに、気にするからいけないのですよ。あんなことを、なにも考えることはありませんよ。僕だって、変なことなら、なんでも言えますよ」
「ほう、言えるかね」
「言えますとも。たとえば、猫がピストルを握って、人を殺したぜ。いや、今日、僕の前をラジオが通りかかったので、右手で掴まえたよ。どうです、こんなことなら、いくらでも言えますよ」
佐々刑事は、口から出まかせを言う。
だが、課長は笑いもせずに言った。
「いや、博士の言った謎は、そんなふざけたものとはちがうようだ。もっと、ほんとうのことがはいっている。これは、明日までに、よく考えて見ることにしよう」
蟻田老博士が、かえりぎわに、なげつけていった謎の言葉を、大江山課長は、その夜も大いに
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