球を攻める場合もあるわけじゃ」
「ねえ博士」
 と、大江山課長は、何とか博士をなだめすかしたいものだと思い、ますます下から出て、
「博士のお考えは、ごもっともです。ですが、火星に生物がすんでいるか、すんでいないかもわかっていないのに、いきなり市民にむかって、火星の生物が、今夜にも攻めて来るぞとおどすのは、どうでしょうかね。つまり、よけいな心配をかけるわけで、あまり感心しないと思うんですがね」
「なに、おどす? わしが、ありもしないことで、市民をおどすとでも言われるのかな」
 と、蟻田博士は大不服らしく、白髪頭をぶるぶるとふるわせ、
「とんでもない間違じゃ。これほどわしが本気で心配しているのが、貴官にはまだおわかりにならぬかのう。ああそんなことでは、前途が案じられる。が、わしの言うことが信じられないとあれば、もう何を言ってもむだじゃ。わしは、もう一つ重大なことを、聞かせるつもりで来たが、もう何も言うまい。だが、後で貴官は、きっと思い知られる時があるじゃろう。はい、さようなら」
 博士は、そう言って、無念そうな顔つきで、課長の部屋を出ていこうとする。
「もう一つ、重大なことを聞かせるつもり
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