一段とうなりごえも高く、妙な紐で千二の首をしめつける。いよいよ千二の息は、止りそうだ。死んではならない。その時千二は、
「えい!」
 と叫んで、どうと横に転がった。
 千二は、怪物もろとも、どうと横にころがった。にぶい音がした。怪物が、横腹をうったのである。
 天狗岩のうえを、千二と怪物とは、取組んだまま、上になり下になり、ごろごろと転がる。
「なにくそ。負けてたまるものか」
 と、千二はどなっているが、実のところ、どうやら怪物の方が力がつよいようだ。千二は、すこぶる危い!
「ま、負けてたまるか!」
 そのとき怪物は、千二のうえにのしあがって、があんがあんと、かたい身体《からだ》を千二にぶっつけるのであった。その痛いことといったら、まるで自動車につきあたられるような気持であった。怪物は、千二をおしつぶすつもりらしい。
 このとき、千二の気持は、かえってだんだんおちついてきた。どうせ死ぬのなら、という覚悟がついたせいかもしれない。日本の少年は、死の一歩前まで勇ましくたたかうのだぞと、日頃教わってきた先生のお言葉を思い出したためでもある。
「水の中へ、怪物をひっぱりこむんだ!」
 父親の幻
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