なにしろ、崖の高さは七、八十メートルもありますので、あれからおっこちたのでは、とてもたまりません。その上、車体はごろごろ転がりながら、すぐ発火いたしました」
「転がるところを見ていたのかね」
「はい、私は、崖の上から、それを見ていたのであります」
「そうか。乗っていた者の死骸が、見当らないという話だね」
「はい。死骸はおろか、骨一本見当らないのです。よく焼けてしまったものですなあ」
「……」
 課長は、それに答えないで、懐中電灯をつけて、あたりを照らした。焼けくずれた自動車のエンジンが、地面をはっているような形をしている。そこから二、三メートル先は、小川であった。
「ふうん、これは、どうも腑に落ちないことだらけだ」
「どこが、腑におちないというのですか」
 闇の中から、ぬっと顔を出したのは、佐々刑事であった。彼は、大江山課長が、何か言出すのを待っていたようであった。
「おお、佐々か」
 と、課長は、後を振返り、
「どうも腑におちないことがあるんだ。ガソリンに火がついて、崖の上からおちた自動車を焼いたことは、よくわかるが、乗っていた人間の体はもちろん、骨一本さえ見当らないのだ。へんではな
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