にして、岩山づたいに、にげ出した。
 岩山のかげからとびだした火星兵のむれは、ぴょんぴょんとカンガルーのように軽く、そうして早くとんでいく。
「おい、お前たち、逃げるのはいいが、さっきわしが言った通り、丸木に伝えるのだぞ。丸木が来なければ、こっちから丸木のところへ出かけるからそう思え」
 博士は、盛に火星兵をおどしつけた。火星兵は、いよいよ驚いて、それこそ雲を霞と逃げていく。
「あははは、逃げちまった。火星兵って、いくじがないんだなあ」
 と、千二少年は、嬉しそうに笑った。
 そばにいた新田先生は、博士に向かい、
「博士。われわれは見つけられたのです。今にここへ火星兵団の大軍が、押しよせて来るでしょう。ですから、またガス砲をうつ用意をしては、いかがでしょうか」
 と言えば、博士は首を左右にふり、
「それはそうだが、火星国へ来たら、なるべく彼等を殺さないのがいい。なるべく彼等を降参させるのがいいのだ。ガス砲をうつと、火星兵は、みんな死んでしまう。それとともに、いい火星人まで死んでしまう。わしが大勝利をいのっているロロ公爵とルル公爵も、今は出かけて、彼等の中にまじっているかも知れないから、ガス砲をうって、二人を殺すようなことがあっては、たいへんだ。だから、ガス砲は使ってはいけないのだ」
 と、博士は先生をいましめた。
「でも、やがて、こっちへ火星兵の大軍が、攻めて来ましたら……」
「まあ、心配するな。わしに、まかせておきなさい」
 と、博士は、どこまでも落ちついている。
 千二は、たえずテレビジョンの映写幕に気をつけていた。火星兵のすがたは、すっかり消えてしまった。残るは岩山ばかりであった。見るからに気味のわるい、火星の風景であった。


   68[#「68」は縦中横] いばる丸木


 千二は博士のすることを見ていたので、テレビジョンをうごかして、他の場所を映写幕のうえに、うつして見ようと思い、ハンドルをぐるぐるまわしてみた。
 岩山は、映写幕の中でうごきだした。そうして、林のようなものが映写幕の中にはいって来た。
 林といっても、千二の目には見なれない木ばかりであった。松やかえでの木などを見なれた目には火星の木は珍しい。そこに見えている木は、どこか、つくしんぼうを思わせた。つまりつくしんぼうのような大木なのであった。木はふしがついていて、すぎなのような葉が出ている。それから、もう一つは苔があった。たいへん大きな苔だ。それが地面の上をはいまわっている。
「気味のわるいところだなあ」
 と、千二が、なおもかんしんして、その林の中をのぞいていると、その時、へんなものが目にはいった。
 林のおくの方から、むぎわら帽子が、ゆらゆらと宙をとんで、こっちへ来るのであった。
「あ、博士。へんなものが林の中にいます」
 と、千二は思わず声を立てた。
「へんなものって、どれかね。どれだ」
 千二は、宙をとんで来る、むぎわら帽子をゆびさした。
「ああ、これか。これは丸木じゃないか。丸木がとうとうやって来たぞ」
「どうして、このむぎわら帽子が丸木なんですか」
「だって、帽子の下をごらん。目が光っているじゃないか。丸木のからだが、みどり色だから、みどりの林の中では、帽子だけしか見えないんだよ」
「ああ、そうか」
 博士に言われて、千二は林の中を、もう一度よく見直した。とたんに千二は、あっとおどろきの声をあげた。林の中には何があったのであろうか。
 蟻田博士と新田先生と、そうして千二少年とが、いかめしい服を着て立っている前に、とつぜん、ぬっと顔を出したむぎわら帽の火星人は、これこそ丸木であったのである。
「おい、丸木。きさまよく逃げおったな」
 博士は叱りつけるように言った。
 すると丸木は、ふてぶてしく、むぎわら帽子をゆすりあげて、
「逃げたわけではない。この火星に、もどって来た方が得だということが、わかったからだ」
「ふん、負けおしみを言うな」
 と、博士がやりかえした。
「負けおしみではない。げんに、おれは、こうして博士よりは、得な立場に立っているのだ。ふふふふ」
「得な立場だって。なにが得な立場だ。きさまを、やっつけようとすれば、すぐにも、やっつけられるのだ。大きなことを言うまいぞ」
 博士は、丸木をたしなめた。
「なに、大きなことを言うなだって。ふん、それはこっちで言うことだ。地球の人間がこの火星にやって来て、大きな顔をしているやつがあるかい。お前たち三人を、やっつけるなんて、それこそ一ひねりでいいのだ」
 丸木も、なかなか負けていない。
 だが、蟻田博士は、そんなおどかしに、びくともせず、
「おい、丸木よ。からいばりは、もうよして心をあらためてはどうか。一体、火星の生物が、地球の人類よりもえらいと思っていることが、あやまりだったと、はっきり
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