ますぞ」
 と、博士は、ロロ公爵とルル公爵の手をにぎってはげました。
 いつも無口のルル公爵も、
「蟻田博士、ご恩のほどはわすれません。たとえ、これでうち死しましても、私はもう思いのこすことがありません」
 と、かんげきの言葉で、あいさつをした。
「あなたは、からだがよわいのだから、くれぐれも気をつけて下さい」
 博士の言葉は、みじかいうちにも、あたたかい情心《なさけごころ》がこもっていた。
「じゃあ、新田先生も千二君も、さようなら」
「どうぞ、しっかりやって下さい」
「ロロ公爵、ルル公爵、ばんざあい」
「ありがとう、ありがとう」
 二人の公爵は、思出多い大空艇からたち出でた。足の下にふんだのは、ひさかたぶりの火星の大地であった。
「じゃあ、いって来ます」
「いってらっしゃい、お元気で……」
 二人の公爵は、ついにくらやみの中にすがたをけしてしまった。大空艇の中には、今はもう地球から来た蟻田博士と新田先生と、そうして千二との三人きりとなってしまった。
「博士、これからあの二人の公爵は、どうするのですか」
 と、先生がたずねると、博士は、
「いよいよ旗あげをするのだ。二人はペペ山へ、いったはずじゃが、そこには二人のために、火星国を元にもどそうと考えている三角軍という、ひみつの兵がいるそうじゃ。二人の公爵がペペ山へもどったことがわかると、同志の者も、おいおい集って来ることじゃろう」
「博士、ぼくたちは、これからどうするのですか。このふき矢をもって、すぐ火星兵団の方へ、せめていくのですか」
 と、千二がたずねた。
 博士はそれを聞くと、くびをふって、
「いや、火星兵団をせめると言っても、たったわれわれ三人では、どうにもならない。結局、ロロ公爵とルル公爵の成功をまって、火星兵団へ、はなしをつけるほかない」
「おやおや、戦争をするのじゃなかったのですか。このふき矢をつかって、火星兵団をやっつけるのだと思っていましたが……」
 と、千二はすこし不満の様子だ。
「いや、それはちがう。ふき矢は万一のときに、われわれが身をふせぐ道具なのじゃ」
「じゃあ、ぼくたちは、これからどうするのですか」
「ロロ公爵とルル公爵の旗あげが、うまくいくかどうかわかるまで、まっているのさ。いや、こんどは多分うまくいくだろうと思っている」
 と話をしていると、新田先生が、とつぜんおどろきの声を発した。
「博士、いま向こうのやみの中で、なんだか、きらきらと光るものが、よこにとびました。流星のようでもありますが、よこにとびました」
 すると、博士はうなずき、
「そうか、どのへんかね」
「あのへんです」
 と、先生が窓から外をゆびさした。
「よろしい。暗視テレビジョンで、のぞいて見れば、すぐわかる」
 博士は機械室の暗視テレビジョンをかけた。すると、その映写幕の上に、まっくらな外のありさまが、まるでひるまのように、ありありと写った。
 見よ、岩山のかげから、しきりにぎょろぎょろと目を光らせている怪物がある。それも一つや二つでなく、かなりかずが多い。光っているのは彼等の目であった。
 カリン岬の岩山のかげから、こっちをのぞいている気味のわるいたくさんの目!
「ふん、やっぱり、丸木のやつ、わしたちを見つけたな」
 と、博士は、暗視テレビジョンを、うごかしながら言った。
「ああ、やっぱり火星兵団でしたか」
 と新田先生は、こぶしをにぎる。
「それでは、やっぱり、僕たちは戦争をしなければならないわけですね」
 千二は、さっきから、しきりと、ふき矢をいじっている。早く、ぷうとふいてみたくて、たまらないらしい。
 博士は、岩山のあいだから、目をぎょろつかせている火星兵団の様子を、くわしく見ていたが、
「うむ、一つ、丸木を呼出してやろう」
 と言って、マイクを手にとると、配電盤のスイッチを切りかえた。こうすると、高声機が、外にあらわれるのであった。
「おい千二、この映写幕を見ておいで。わしが今しゃべると、この岩山のかげにいる連中が、どんなことを始めるか。おもしろいから見ておいで」
 そう言って博士は、マイクに口をつけると、火星語でしゃべり出した。
「おれは蟻田だ。丸木にここへ来いと言え。いま十分のうちに来なかったら、おれは、丸木の体を水のように、とかしてしまうとそう言え」
 博士の言葉は、火星兵のあたまの上に、大きな声となってふりかかった。
 火星兵は、びっくりして、じぶんのあたまの上を見た。なんだか、丸木をつれて来いなどと、けしからんことをいう怪物が、じぶんのすぐ頭の上にいるような気がしたのである。しかし、そこには、くらやみがあるばかりで、生き物のすがたも見えなかったので、火星兵は、いよいよ気味わるがって、岩山のかげからとび出した。そうして、にげるわ、にげるわ、その奇怪な体をむき出し
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