靴は、あたりまえにつければよろしい。さあ、いそいで、やりなさい」
「はいはい」
先生と千二とは、博士にいそがされて、別室へいった。
「博士、服と酸素かぶとと、どっちを先につけるのですか」
と、千二がたずねた。
「それは、わかっているじゃないか。先にズボンをはき、それから服を着、そのうえから、酸素かぶとをかぶるのじゃ」
「靴は、いつはくのですか」
「わかっているじゃないか。靴は、ズボンをはいてから、はけばよいのじゃ。酸素かぶとをかぶってからでもよいぞ。なかなかせわのやける奴じゃ」
博士は、千二をしかりつけながらも、にこにこしている。博士にとっては、二度目の火星訪問だが、たとえこれから、たいへんな戦闘がはじまろうとも、大空艇で宇宙の旅をつつがなく終え、ついに目的地の火星までやって来たことが、うれしくてしかたがないらしい。
先生と千二は、博士にならって、ものものしいすがたになった。
(こんな重いものを着て、どうなるであろうか。重すぎて歩けないであろう。これで千メートルも歩けばへとへとになるであろう)
千二は、はじめ、そう思っていた。
ところが、不思議なことに、それを着てみると、思いのほか軽かった。
「おや、不思議だ。これは、みんな紙で出来ているのかしら」
まさか、紙で出来ているとは思わなかったけれど、思いのほか、たいへん軽いのであった。それをからだにつけて歩いてみても、平気であった。
博士は、千二が感心しているのを聞いて、
「それは、軽いのがあたりまえだ」
「へえ、なぜかしら」
「それは、つまり、重力というものが、火星の上では減るからじゃ。地球の重力よりも、火星の重力の方が軽いのじゃ。だから、火星の上では、ものが軽くなったような気がするのじゃ」
「はあ、そうですか」
すると、新田先生が、
「そういえば、このごろなんだか、からだが軽くなって、ふわりと飛べそうな気持がすることがあるのですが、重力が軽くなったせいですね。うっかりしていて、それを忘れていましたよ」
と言った。
「今ごろ気がつくようでは、たよりがないねえ」
と、博士が、かぶとの中で、にやにや笑った。ところが、それと反対に、火星人のロロ公爵とルル公爵とは、着ていたものを、ぬぐ話をしている。
「やれやれ、やがてこれをぬいで、はだかになれると思うと、ありがたいなあ」
「僕はからだが弱いから、よけいに、そうなる日が待ちどおしい」
「あははは、丸木艇は、やっと火星に着いたようじゃ」
博士はテレビジョンの幕を指しながら笑った。
「さあ、丸木先生、これから何と言って火星王に報告することじゃろうか。さだめて、大きなほらを吹くことじゃろう」
「火星には、火星王というのが、いるのですか。丸木が、火星で一番いばっているのでは、ないのですか」
千二は尋ねた。
「いや、別に火星王というのがいるのじゃ。その火星王は、たいへん悪い奴で、ロロ公爵とルル公爵の母にあたる前火星女王をほろぼし、位を奪ったのじゃ。丸木は、その軍部大臣の役をしているのじゃ」
「では、これからロロ公爵とルル公爵は火星へ帰ると、火星王のために捕えられはしませんか」
「もちろん、両公爵が帰って来たことを知ったら、捕えに来るのであろうなあ。だが、ロロ公爵もルル公爵も、今は、りっぱな大人になった。そうして、わしのところでいろいろと勉強もした。だから、火星王が攻めて来ても、そうかんたんに、やっつけられないよ。わしも今度は出来るだけのお力になり、ロロ公爵やルル公爵が、ふたたび火星をおさめるようにしてあげたいと思っているのじゃ」
「それはいいことですね。僕もそうなる日を祈っています」
日本語がよくわかる二人の公爵は、それを聞いて大変喜んだ。
「まあ、見ていて下さい。僕たちはやりますよ。そうして火星を、りっぱな国にしたいと思っているのです。今までの火星は、文化こそ進んでいるが実に恐しい国です。悪いことをする者がえらいのだと考えている。早く言えば、丸木などは、どろぼうをするために、地球へ攻めていったようなものですからね」
大空艇は、針路を左へ曲げた。
火星の大地は、それとあべこべに右へまわっていく。
しばらくすると、火星の端が、黒くふちをとったように、見えはじめた。それは火星の夜の部分であった。
大空艇は、どんどん左へまわる。
火星の表面から、明かるい部分が、どんどん小さくなる。そうして、やがて、全く暗くなった。
「このへんでいいだろう。消音装置を働かして下りていこう」
蟻田博士は、目盛盤のつまみを動かした。すると、大空艇は、ほとんど垂直に下りはじめた。
「わざわざ暗いところへ、下りるのですか」
と、千二が、博士に尋ねた。
「それはそうだ。明かるいところを下りていくと、丸木たちがうるさいからね」
「では、火星
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