の夜のところへ大空艇を着けるのですね」
「そうだ、カリン岬に着けるよ」
「博士、丸木は、僕たちが後を追いかけて来たことを、知っているでしょうね」
「もちろん、知っているよ。だから、火星へ上陸しても、なかなかゆだんはならないよ」
「そうですね。僕たちも、丸木と戦わなくてはならないのですね」
「それくらいの覚悟はしている必要があるね。もっとも、ロロ公爵の旗の下へ集って来る兵も少くないであろうが、とにかく、はじめのうちは、あぶないぞ」
「博士、火星兵と戦うには、何をつかうのですか。もう、ガス弾などは役にたたないのでしょうねえ」
「ああ、ガス弾か。ガス弾をつかえば、火星兵はやっぱり死んでしまうよ。しかし、味方の兵まで殺してしまっては、なんにもならないから、今度は、また別の兵器をつかうのだ」
「別の兵器? それは、どんなものですか」
「火星の上で使う新兵器は、ここにあるこれだよ」
 そういうと、博士は、うしろの壁にかけてあった長さ一メートル半ほどの黒い管《くだ》のようなものをとり、千二に見せた。
「これは何ですか。中に穴が通っていて、こっちの太い端には、ゴムの口あてのようなものがついていますね」
「わからないかね。君たちの得意なものだろうと思うが……」
「僕たちの得意なものですって。ははあ、そういえば、思い出した。これ、ふき矢をいれる管みたいですね」
「そうだ。あたったよ。そのとおりだ」
「博士、ふき矢をいれる管を、どうするのですか」
「やっぱり、ふき矢をいれて、ふくのだよ。火星人にあてるためだ」
 千二は、なあんだという顔で、
「ふき矢ぐらいで、火星人がまいるかしらん。だいいち、遠くから攻めて来た時に、こっちは、ふき矢をふいたのでは、届かないじゃありませんか」
 すると博士は、軽く笑って、
「千二君は、大事なことを忘れているよ。火星の上でふき矢をふくと、ずいぶん遠くまでいくのだ。地球の上で機関銃を撃った時よりも、もっと遠くまでいくのだ」
「そんなことはないでしょう。人間のいきは、そんなに強くありませんからね」
「わからん子供じゃなあ。千二、火星の上では重力が小さいのじゃ。ぷっと上にふけば、かなり長らく落ちてこないのだ。だから、ふき矢だとて、ばかにならない。遠くへ飛ぶのだ」
 言われて、千二はやっと気がついた。先生からも聞いたが、火星の上では重力が小さいから、上へ放りあげたものは、なかなか落ちて来ないのであろう。すると地球の上では、つまらないふき矢も、ここでは強い兵器だ。
 ふき矢問答はつづく。
「博士、ふき矢が火星の上では、なかなかつよい兵器だということは、わかりました。しかし、どうして、このふき矢を使えばいいのでしょうか」
 と、千二は、ふしぎそうに言った。
「なんでもない。口でぷうとふけばいいのさ。お前たち、とくいのふき矢ではないか」
 千二は、そこが問題だという顔で、
「だって、博士。こんな酸素かぶとを、かぶっていたんでは、ふき矢を口にあてようとしても、あてられないではありませんか」
 博士は、なるほどとうなずき、
「ああ、そのことかね。それは、しんぱいなしさ。かぶったままでも、らくにふけるのだよ。かぶとの中に、口のあたるところがある。そこへ口をつけるのさ。それから、ふき矢の口は、かぶとの外に穴がある。ほら、ここのところだ。口よりすこし下のところに、へそみたいなものがあるだろう。この穴にあてればいい。そうして、口で、ぷうとふけば、ふき矢は、ちゃんとあたりまえに、とんでいくのだ。わけなしのことだよ」
「ああ、そうですか。なるほど、この穴ですね」
 と、千二は、かぶとの下についている、へそのような穴に、さわってみた。
「しかし、博士。こんなところに、穴があいていると、かぶとの中の酸素が、みんな外にもれてしまいませんか。また、外から、火星の空気がはいって来ませんか」
「それは大丈夫だ。人間の心臓に、べん[#「べん」に傍点]というものがついている。そのべん[#「べん」に傍点]は、一方からは通るけれども、その反対の方向からは、通らないのだ。これをべん[#「べん」に傍点]といって、心臓だけではなく、世の中にある機械にも、べん[#「べん」に傍点]のはたらきをするものが、よくつかわれている。このかぶとの中につけてあるのは、つよい特殊ゴムでできたべん[#「べん」に傍点]である。だから、お前のいうしんぱいはないよ」
 と、博士は、べんのしかけを説いた。


   67[#「67」は縦中横] 出陣


「カリン岬が見えました」
 と、ロロ公爵が、博士のところへ知らせて来た。
「もう見えますか。おい、新田、操縦室へ来い」
「はい」
 千二も、あとからついていった。
「そこにあるハンドルを、しっかりにぎっておれ」
「はい、これですね」
「そうだ。わしが命
前へ 次へ
全159ページ中145ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング