ぱいのあまり、なんでもかんでも、今のうちに、聞いておかねばならぬと思っている。
「本城は、クイクイ運河地帯を目の前に見渡すペペ山におくつもりです」
「なるほど、ペペ山ですか。ペペ山なら、なかなかいいところです。あの切りたったような断崖は、まことにりっぱですね。わしもこの前火星へいったときには、ペペ山へは時々いってみましたよ」
「ペペ山は、私たちの祖先たちが、かならず大事にしていたところです。祖先のたましいが、あの山いっぱいに、こもっているのです。そうして何か大変な時には不思議なことがあって、私たちをまもってくれる霊山です。この前は、あの山を敵のため、すぐ奪われたので、いけなかったのです」
 ロロ公爵は、しんみりと言った。
 千二少年は、新田先生とならんで、窓の外を見ていた。はんたいの方向にまわる火星の二つの月はだんだんと両方へ離れていく。見れば見るほど、不思議な月であった。
「先生、ぼくは、なんだか夢を見ているような気がします。いま、ぼくは、ほんとに火星のそばまで来たのでしょうか」
「そう思うのは、もっともだ。わたしも、火星へ来たのは、はじめてだ。やっぱり夢を見ているような気がするよ」
 先生もおなじようなことを言った。
 そのうちに、どうしたわけか、あたりが急に暗くなった。
「おや、暗くなったぞ」
 千二少年は、ガラスが、どうかしたのかと思って、服の袖でしきりにガラスをふいた。
 だが、そんなことは、一向ききめがなく、だんだんと暗さがました。
「おやおや、火星が見えなくなってしまった。いままで、あのように美しくかがやいていた火星が、急にすがたを、けしてしまった。先生、これは一体どうしたわけですか」
 すると、新田先生は、しずかにうなずき、
「千二君。窓ガラスをよく見たまえ」
「え、窓ガラスですか」
「ガラスの上に、何か見えないかね」
「さあ。――」
 と言ったが、千二が見ると、外からガラスの上を、なんだか黒い粉のようなものが、ふきつけている。
「ああ、この黒い粉みたいなものは、何でしょう」
「わかったかね。それは火星塵だ。つまり、火星のまわりを、こまかい塵の層がつつんでいるのだ。それを火星塵の層といっているが、いまわれわれは、その塵の層のまん中に、はいったのだよ。だから、まっ暗なんだ」
「ああ、そうですか」
 千二は、なんだか、たいへん心ぼそくなった。まっ暗な井戸の中へ、おちこんだような気がしたからである。
 まっくらなんて、嫌なものである。大空艇の外は、なんにも見えない。
「さっきまで見えていた火星が、急に見えなくなるなんて、へんだなあ。火星に近づいたから、もっと見えなければならないわけだがなあ」
 千二は、顔をしかめている。
「それはね、土けむりの中に、はいっていると向こうが見えないが、土けむりの外からだと、土けむりをとおして、向こうが見えるのと同じだよ」
「へえ、そうですか」
「だから、いまに火星塵を通りぬけると明かるくなる。火星の表面がはっきり見えるようになる」
「そうですかね」
 と言っているうちに、あたりは急に明かるくなったような気がした。
「あっ、火星がまた見えだした。ああ、きれいだなあ」
 千二は、驚きと喜びとが一しょになった。
 火星は、もう大きな鏡のようになり、そうして、まぶしいほど明かるかった。それは火星塵を通り越したからであった。始めて、すきとおった空をとおして、火星を見るのであった。
 ああ火星のすがた!
 火星は、地球と同じように海らしいものもあるし、また陸のようなところもあった。ただ不思議なのは、真白に光る、かなり広い円形のところがあった。
「ああ、あれかね。あれは、火星の極だよ。大変寒いところで、あの白いところは雪と氷がつもっているのだ。そこへ太陽の光が照りつけて、あんなに美しく光っているのだ」
 ああわが太陽! このはるかな火星に来てみても、あの太陽だけは、この地球と同じ太陽が照りつけているのだと思えば、何だか急に、太陽がなつかしくなった。


   66[#「66」は縦中横] ふき矢


「おお、お前たち、どこへいったのかと思って、さがしていた」
 そう言って、はいって来たのは、蟻田博士であった。
 新田先生と千二が、ふりむいて博士を見るとともに、おうと声をのんだ。
「博士、ものものしい、おすがたですね」
 博士は、まるでサンタクロースかエスキモー人のように、厚い毛皮の服に、ズボンに長靴といういでたちだった。しかも、そのうえに、例の大きな酸素かぶとを、かぶっているのであった。
「さあさあ、もうすぐ火星につくぞ。お前たちも、このとおりのかっこうをしなければならないのじゃ。服やなにかも、むこうに出しておいた。酸素かぶとは先に教えたとおり、かぶり方がむずかしいから、気をつけてやれよ。服やズボンや
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