ある学者が発表したことがある。だから、その火星塵《かせいじん》の、あつい層を下へつきぬけなければ、火星の表面は、はっきり見えないわけだ」
「火星塵の、あつい層ですか。地球にはないものが火星にはあるのですね」
「そうだ。地球と火星とは、形こそ似ているが、違うことはいろいろたくさんあるよ。ほら、あそこをごらん。火星のお月さまが見える」
「えっ、どこですか」
「あそこだ」
 先生の指さすところをよく見ると、なるほど、月らしいものが浮いている。
「ああ、あれが火星の月か」
 と言ったが、千二は、へんな顔をして、
「先生、あれはなんでしょうか。こっちの方からも、月のようなものが出て来ましたよ」
 と、左の方を指さした。
 見たところ、ちゃんと月の形をしている。それが、はじめの月と反対の方向に、ぐんぐんとまわりだしたのである。
「ああ、あれも、火星の月だ。小さい方の月だ」
「えっ、小さい方の月? すると、火星には、大きい方の月もあるのですか」
 千二は、ますます不思議そうな顔であった。
「そうなんだ、千二君。君は、火星に二つの月が、ついてまわっていることを、知らなかったのかねえ」
「二つの月ですって。お月さまは、一つだけのものだと思っていました。火星には、月が二つもあるのですか」
「そうだよ。小さい月がデイモス、大きい方の月がホボス、そういう名なんだ」
「へんな名前ですね。一度じゃあ、おぼえられないや」
 と、千二は、首をふった。
「デイモスにホボスだよ」
「あっ、先生、こっちの大きいお月さまは早いですね。もう、あんなに動きましたよ」
「そうだ。ホボスの方は、たいへん早くまわるのだ。一日のうちに、火星のまわりを三回ぐらいまわるのだ。デイモスの方は、一日では火星のまわりを、まわりきらないのだ。三十時間しないと、一回分まわらないのだよ」
「火星って、実に不思議な国ですね。お月さまが二つあったり、それがたがいに反対にまわったり、それから一方のがのろのろしていて、他方のがかけ足で三回もまわったり、ああ、ぼくらの地球とは、まるで違うのですねえ」
 千二が、目をまるくして火星の月をみていると、その二つの月は、ぐんぐん近づいて衝突しそうに見えた。
「あっ、お月さまの衝突だ!」
 千二は、思わず、そう叫んだ。火星の二つの月が、反対の方向からだんだん近づいて、衝突するかのように見えたのである。
「大丈夫。衝突なんかしないよ。地球とモロー彗星の場合とちがうのだ」
 新田先生はそう言ったが、千二が見ていると、たしかにその通り、衝突すると見えた二つの月は、いつの間にか左右にわかれ、今度は、少しずつ離れだした。
「なるほど、衝突はしなかったですね」
 千二は、かんしんして言った。
「地球とモロー彗星も、あのように、うまく衝突しないで、すれちがえばいいのだが……」
 と、新田先生は、しみじみと言った。どうも先生の頭には、いつも地球のことが、こびりついているようであった。
 操縦室では、蟻田博士が、ロロ公爵とルル公爵に対し、熱心に話を続けている。
「……それじゃ、やっぱり、カリンの岬に大空艇を着けますかね」
 と、博士が言えば、
「それがいいですよ。カリンの岬なら、丸木なんかが攻めて来ようとしても、ちょっと手間がとれますからねえ」
 と、ロロ公爵が賛成した。
「あそこには、水底に洞窟《どうくつ》がありましたね」
 と、蟻田博士がたずねた。
「そうです。カリン下の洞窟のことですね。あそこは、かくれるのに持って来いのところです」
「洞窟と岬との間には、抜道のようなものがありましたね」
「ああ、ありますとも。五つの扉をあけないと通れませんが、階段がついていますよ」
「その扉は、どうすればあくのでしたかねえ」
「呪文を唱えればいいのです」
「その呪文は」
「ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレと言えばいいのです」
「むずかしい呪文ですなあ。ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレか」
 蟻田博士は、口をもぐもぐさせて、この言いにくい呪文をくりかえした。
「そこでロロ公爵、あなたは、火星へ帰られると、すぐ旗あげをせられますか」
「ええ、やりますとも。ルルが、ぜひともやると言って、意気ごんでいるのです」
 と、ロロ公爵は言って、側にひかえたルル公爵をふりかえった。
 ルル公爵は、いつも、だまっているのが好きであった。この間の病気以来、ルルは、前よりも一そう口かずが少くなった。何かしゃべるのは、いつもロロばかりであった。
 火星の王子であるこのロロ・ルルの兄弟は、蟻田博士のため危ういところを救われ、地球の上で大きくなったのであるが、こんどいよいよ火星へ帰ると、すぐさま旗あげをして、もとの王家をさかんにしたい考えだった。
「旗あげをするには、どこを本城とするのですか」
 蟻田博士は、しん
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