ごい音をたてて、一時に空中にまいあがったのであった。
丸木はぷりぷりおこっている!
57[#「57」は縦中横] 大空艇《だいくうてい》
大江山突撃隊長は、ガス砲陣地のあるところから、すこし離れた小高い岡の上に立って、数名の観測員などを、さしずしていた。隊長をはじめ、いずれもみんな草や木の枝をあたまからかぶって、擬装していたものだから、空からは、これが人間だとは、見えなかった。
観測員の一人が、しきりに、空を見上げている。彼の目の前には、一本のつながたれていた。そのつなを、下から上へ見ていくと、二百メートルばかり上に、一羽の鳶《とび》のような形をした鳥が、つばさをひろげて、とんでいる。――いや空中に、ほとんど、じっとして、うごかないのであった。
それは、もちろん、ほんものの鳶ではなかった。それは、たいへんにかるい気体をつめた一種の風船であって、その風船には、光電眼《こうでんがん》がついていた。
光電眼は、テレビジョンと同じような、はたらきをもっている。球形のレンズに、外の景色はみんなおさめられる。すると、内側で、これが電気になって、つなの中をつたわって地上の観測員のところまでおくられる。あとは、テレビジョンと同じに、再び物の形にして、景色が見える。これも蟻田博士の発明品だった。
この光電眼をつけた鳶は、二百メートルの高さのところから、火星の宇宙艇の基地をにらんでいた。宇宙艇の全部がとびだしたところが、この光電眼を通じて、観測員に、よく見えた。
「隊長、いよいよ全艇そろって、まい上りました。あとに、宇宙艇は、一つも、のこっていません」
「そうか。よろしい。どうも、蟻田博士の予言したことが、いちいちそのとおりになるねえ」
「はあ、そうですかねえ」
「いまに、全艇が、高空から、われわれめがけて、まい下りて来るだろう。これも博士の予言だ」
「ははあ、博士は、そんなことまで、見とおしていられるのですか」
どこまで、えらい蟻田博士であろう。
このように、えらい博士を、おかしいと思っていた大江山課長は、ときどき、それを思い出して今でも冷汗が出る。
「ああ、博士ですか。全艇そろって、ただ今、高度一千メートルのところを、急上昇中です。よろしいですか」
大江山は、とびあがった火星の宇宙艇の様子を、刻々に、博士のところへ、電話でつたえるのであった。
博士は、どこにいるのであろうか。
博士は今、例のせまい研究室の中に、新田先生と一しょにいる。
博士は、そのせまい室内にある操縦席みたいな椅子に、ふかく腰を下している。博士の前には、たくさんの計器が並んでいる。
新田先生は、その隣の座席に、腰を下している。
大江山隊からの電話は、博士の頭の上の高声機から、ひびいて来る。
「大丈夫だよ、大江山君。やがて火星兵団が、君の陣地を攻撃するだろう。しばらく、がんばっていてくれたまえ。あとは、こっちでいいようにやるから……」
蟻田博士は、座席の下から、ぬっと、口のところまでのびている送話機の中に、声をふきこんだ。
「じゃあ、博士、どうかお願いします」
「よろしい。引きうけました」
博士は、たのもしい言葉を、もらした。電話は、そこで切れた。
「博士、ほんとうに、大丈夫ですか」
「うん、自信はあるのだ。まあ、見ているがいい」
「この部屋に、いつまでも、こうしているのですか」
「そうじゃ。じゃが、間もなく、この部屋もろとも、出発じゃ」
「え?」
先生は、ふしぎそうに、聞きかえした。
(この部屋もろとも、出発じゃ!)
博士のいったことは、新田先生には、わけがわからなかった。そこで、えっと、ききかえしたわけであった。
「新田、この部屋が、かわった作りかたをしてあるのが、お前にはわからないか」
「えっ、かわった作りかたといいますと……」
「なぜ、こんなにせまいのだろうかと、考えなかったかね。また、なぜ、こんなにトンネルのように、奥行ばかりふかいのだろうかと、うたがわなかったかね」
博士は、そういって、新田先生のけげんなかおを、たのしそうに眺めた。
「博士、わかりませんなあ」
「わからんか。よほど、お前は血のめぐりが悪い。じゃあ。これを見よ」
博士は、そういって、前の計器盤の下についている押ボタンの一つを、指さきで押した。
すると、にわかに、大きなエンジンが、まわりだしたような音がした。そうして部屋全体が、こまかくふるえているのだった。
新田先生は、耳をすました。そうして、ふしぎそうに、あたりを見まわした。
博士は、第二のボタンを押した。エンジンらしいものの廻転が、また一段と、早くなったようである。
「まだ、わからんか。――新田、お前の坐っているところの正面に、やがて窓があくから、よく気をつけていろ」
「はあ、窓ですか」
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