そのとき、博士は、第三のボタンを押した。
 とたんに、新田先生は、ひどい力で、ぐうんとうしろへ、引かれたと思った。あたまが、ふらふらとした。なんだか、部屋が、走りだしたようである。ここは、ふかい地下だというのに、ふしぎなことである。
「ほら、外を見ろ」
「えっ!」
 先生の前のかべに、円い窓のようなものがあらわれ、明かるい光が外からはいってきた。先生は、その窓をのぞいて、あっとおどろいた。
 ゆれる部屋だ!
 新田先生は、窓から外を見て、びっくりしてしまった。というわけは、窓の外に、いきなり、市街が見えたからである。
 いや、走る市街であった。
「博士、これは、どうしたのでしょうか」
 それに対して、博士はおちついたこえで答えた。
「わからないかねえ。われわれは今、大空艇にのっているのだ」
「大空艇? 大空艇というと……」
「これは、わしが、かねてこしらえておいた新式の飛行艇だ。麻布の高台の下に、うずめておいたが、トンネルのような長い部屋と見せて、実は、魚雷を大きくしたような形の飛行艇なのだ」
「そんなりっぱなものが、地底にうずめてあったのですか」
「そうだ。しかしこの大空飛行艇は、飛行機ともちがうし、ロケットともちがう。わしが、苦心をして作った原子弾エンジンをつかっている世界無比――いや、ことによると、外の遊星にも、あまり類のない飛行艇じゃ。小型のくせに、今までのロケットなどの速度よりも、十倍でも二十倍でも早くなる。空気のないところへ出れば、もっと桁ちがいの快速度が出る」
「それが、どこから、とび出したのですか」
「研究所の横に、崖があったね。あの崖をつきぬけて、とびだしたのだ」
「じゃあ、今、窓の下にみえる市街は、東京市なのですか」
「そうじゃ。もう今は通りすぎて見えないが、あれは東京市じゃった。――そんなことは、おどろくに足りないが、この大空艇のすばらしい性能は、地球の引力圏外にとびだしてみれば、はっきりわかるのだ」
「え、引力圏外へ? すると、火星までも、とべるわけですか」
 新田先生は、目をまるくして、このおどろくべき新飛行艇の中を見まわした。
 新田先生は、感心している。なんというすばらしいこの大空艇であろうか。
 そういえば思いだしたが、このまえ、地底に変な長細い部屋が、しきってあると思った。あの時見た魚雷のしっぽのようなものは、実に、この大空艇の尾部だったのか。
 だんだん見ているうちに、これが空飛ぶ大空艇であることが、はっきりしてきた。
 博士のすわっているところは、たしかに操縦席であった。その前に、たくさんならんでいる計器は、空を飛ぶ時、ぜひとも、よく見ていなければならない速度計やコンパスや、そうして原子弾弁や加速度計などであったのである。
「おや、こいつは困ったぞ」
 新田先生が、おどろいてふりむくと、博士は、にがい顔をして、しきりに、ボタンを押したり、スイッチを開いたり閉じたりしている。
「どうしました、博士」
「どうも、変だ。せっかくの原子弾エンジンが、ちょっと工合が悪いのだ」
「そうですか。困りましたね。どこが悪いのでしょうか」
「おお、ここがいけないのじゃな。冷却用の水が、うまくまわらないのだ。冷却管《れいきゃくかん》のいい材料がなくて、仕方なしに、つなぎ目に、ゴム管を使ってある。そのゴム管が、どうかしたのじゃないかと思う。ゴム管というやつは、折れたり、または上から重いものがのると、平ったくなってしまって、穴がふさがってしまう」
「博士、私が見てきましょう」
「お前に、わかるかなあ。しかし、わしは、ここをちょっと離れられないから、とにかくお前にたのもう。となりの部屋に、あかりをつけて、見てくれないか。ここに図面がある。ここのところだ」
 先生は、図面を持って、操縦室よりも先の方にある部屋を開いた。
(冷却管の故障だ)
 と、蟻田博士は、言うのであった。
 新田先生は、ほんとうに、そうかしらと、うたがいながら、図面を片手に機械室の中をのぞいた。そこは、せまいところへ、ごてごてと機械がならんでいて、電線やパイプが、まるではらわたのように壁や天井を、いっぱいにはいまわっていた。
 新田先生は、冷却管は、どこであろうかと、機械の間を見廻した。
 そのとき、先生は、
「おやっ」
 と、さけんだ。
「だれか、寝ている。人間だ!」
 先生は、機械のうしろに、せなかを円くして、たおれている人間を発見して驚いた。
 だれであろう? 何者であろうか?
 先生はちょっと尻ごみしたが、やがて、勇気を出して、その寝ている男をひきおこしてみた。
「ああ、千二くんじゃないか!」
 先生は、びっくりして[#「びっくりして」は底本では「びっくりしして」]大きな声を出した。意外にも意外!
 この思いがけない大空艇の客は、彼の教え子の
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