へんでよかろう。おい、新田、一、二、三で、例のことをはじめるぜ)
 と目くばせをしたのは、蟻田博士であった。
 新田先生はうなずいて、早くもマントの下のガスピストルをにぎりしめた。
(それ、一、二、三。そら、はじめ!)
 博士は、ピストルをマントの下から出すと、新田先生の方に手を上げて合図をした。それと同時に、博士はガスピストルの引金を引いた。
 今日はピストルの音がしなかった。今日博士は、消音のしかけをピストルにつけ加えたのであった。
 ガス弾は、無音のうちに火星兵の胴中《どうなか》に命中していく。火星兵どもは、はじめのうちは何にも気がつかない。そのうちに自分の胴から黄いろい煙が出たなと思ったとたんに、
 しゅうっ、しゅうっ。
 と、大きな音がして、全身が破れそうに痛くなる。そうしてあとは、気がとおくなってしまう。その時には、彼はもう地上に倒れているのであった。
 火星兵は、次々に倒れていく……。
 火星人にばけた蟻田博士と新田先生とは、ガスピストルを、さかんにぶっぱなしている。
 山のいただきに集り、近づく大江山突撃隊を見おろして、がやがやおしゃべりをしていた火星兵どもは、かたっぱしから怪音を発して、ぶったおれる。あたりは、十号ガスの煙がもうもうとたちこめて、まるで煙幕をひいたようである。
 そのうちに、火星兵の方でも気がついた。
「どうも、おかしいぞ。あやしい奴が、はいりこんだらしい。おいみんな、気をつけろ」
「気をつけるどころじゃないぞ。これを見ろ、たいへんだ。いつの間にか防圧の壁がとけてしまって、みんな、はだかになって死んでいくぞ。どうもへんだ。わしもやられたらしいぞ。た、助けてくれ」
「この煙がおかしい。おや、あそこにいる二人の火星兵めが妙なものを手に持って、わしらの仲間の胴中に、何かしきりに撃ちこんでいるぞ。こら、お前たちは何をしているのか。おい待て」
「うん、さっきから、その二人は、あやしい奴だと思っていた。やい、手に持っているものを、こっちへわたせ」
 蟻田博士と新田先生とは、ついに火星兵のため、ばけの皮をはがされてしまった。
「博士、どうやら、こっちの正体を見やぶられたようですよ。どうしましょうか」
「なあに、かまわん。今のうちに、手あたりしだい、ぶっぱなしておけ。こいつらをたおしておけば、向こうにいる本隊の火星兵どもは、まだ当分、気がつかないでいるだろう。そら、そこにいる火星先生にも一発……」
 と、博士は楽しそうにピストルを音もなく撃ちまくる。そのうちに、火星兵の誰かが、これを知らせたものと見え、宇宙艇が林立する本隊の方から、火星兵部隊がどっと押しだして来た。
 ちょうどその時、大江山捜査課長のひきいる突撃隊の先頭が、ついに山のいただきに顔を出した。さあ、大合戦だ!
 火星兵と人間突撃隊との大合戦の幕は切って落された。
 大江山隊長は、こんどこそこの山に屍《しかばね》をさらすつもりで、自ら突撃隊の先頭に立って、おどり上って来た。
「突撃隊、つっこめ! 恐れてはならん、おちついて、一発ずつ正確な射撃をしろ! 第一隊は正面、第二隊・第三隊は左へいって、横合から攻めろ。第四隊以下は、我らにかまわず、敵の本隊へ突入せよ!」
「うわあっ、うわあっ」
 のどもはりさけよとばかり、突撃隊は、ときの声をあげて、火星兵の中におどりこんでいった。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 ぷく、ぷく、ぷく。
 火星兵部隊の方でも、何だかわからないが、しきりに怪しい声をあげ、人間突撃隊を踏みにじろうと、押出して来る。まるで人間タンクの大群が、どんどん前へ出て来たようである。
 ごうん、ごうん。
 突撃隊の持っているガスピストルやガス銃は、消音式になっていないから、さかんに大きな音を立てる。
 ぱかっ、ぱかっ、ぱかぱかっ。
 あちらでもこちらでも、火星兵の胴中が破裂する。しゅうっ、しゅうっと、えらい響である。
 たちまち、あたりは黄いろい煙に閉じこめられて、まるで先が見えなくなった。
 しかし、ガスピストルの音と、火星兵のかぶっている胴がとけて爆裂する響と、それに交って、双方の死物ぐるいの叫び声が、ものすごく山々をゆすぶった。一体、どっちが勝っているのか負けているのか、さっぱり見当がつかなかった。
 そのうちに、ピストルの音が、はたとやんだ。しきりに聞えていた火星兵の胴の爆裂音も、にわかにとまった。はて?
 珍しい大合戦だ。
 火星人と人間との、追いつ追われつの合戦だった。いつも人間隊が、みじめにやっつけられていたが、今度という今度は、人間隊は、強きをほこる火星人隊を向こうにまわして、かなり有利にたたかった。
 急に静かになったのは、どういうわけであるか。
 大江山隊長、蟻田博士、新田先生の三人は、一つところに集って来た。
「博士、新田さ
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