ん。何だか火星兵の様子がおかしいですぞ」
「おお、大江山さん。にわかに静かになりましたね。博士、これはどういうわけでしょうか」
「さあ、わしにもよくわからん。だが、とにかく今度は、人間部隊の勝ったことには間違なしだ。ひとつ、ここらで威勢よくときの声をあげろ」
「いいでしょう。おい、突撃隊! 大勝利を祝って、大声で、ばんざい三唱だ。それ、ばんざあい」
 ばんざい、ばんざあいと、突撃隊の一同は声をそろえて、ばんざいをさけんだ。
 そのうちに、もうもうとたちこめていた十号ガスのかたまりが、風に吹かれて、だんだん谷あいの方へすべっていった。そうして、そのあとから、大合戦のあとの血なまぐさい戦場が、あらわれ出たのである。
 ああ、何という奇妙な光景であろう。
 褐色がかった火星兵の、あかはだかの死体が、あたり一面に、ごろごろころがっている。味方にも多少傷ついた者はあったが、火星兵のため、殺された者はいない。
「おお、あれを見よ。火星兵はみんな宇宙艇の中に逃げこんだのだ!」
 博士がさけんだ。
 なるほど、火星兵は、もうすっかり宇宙艇の中に逃げこんでしまって、窓からのぞいている。もはや地上には一人の火星兵もいない。かくして、ぶきみな、にらみあいがはじまった。
 火星兵団と大江山突撃隊とが向きあって、気味の悪いにらみあいを続けている。
 火星兵は、一人残らず林立する火星の宇宙艇の中にはいってしまった。そうして窓から、こっちをのぞいている。
 突撃隊のほうでも、これ以上ちょっと進みかねている。
「蟻田博士」
 と、大江山隊長が博士をよんだ。
「なんじゃの」
「火星兵どもは、すっかり、宇宙艇の中に逃込んでしまいました。この上は、宇宙艇の中へ攻込んで、火星兵を残らずやっつけたいのですが、何かいい方法はありますまいか」
 大江山隊長は、あくまで火星兵団をやっつける気である。これまでに、火星兵団がした悪いことのかずかずは、そのまま許しておけなかったし、この上、ほうっておけば、どんなことになるかわからない。
「そうだのう。わしは、火星兵が思いのほか、あっさりと引きこんでしまったので、あてがはずれたところじゃ。はてな、どうしてやろうか」
 そう言っている時、林立している火星宇宙艇の上の方がぴかりと光った。それが、合図ででもあるかのように、並ぶ宇宙艇から、ぴかぴかぴかと、目もくらむような光が、いなずまのように、烈しくきらめきだしたのであった。
 何事が始ったのか?
「あ、こいつは、いかんぞ。大江山隊長、残念ながら、早いところ山を下りたがいい。火星兵団に何か、たくらみがあるぞ!」
 博士が、いつになく、あわてて注意した。
「え、一度引上げるのですか」
「うん、早くせい」
 そう言っている時、突撃隊の中に変なことが起った。
 火星の宇宙艇が、ぴかぴかやっているうちに、突撃隊の中に、へんなことがおこった。――とは、どんなことだったか?
「隊長、ピストルがぐにゃぐにゃになってしまいました」
「わたしのもそうです。いやそればかりではない。腰についていた剣がどろどろにとけて、地面に落ちてしまいましたぞ」
「わたしのも、とけてしまった。これはどうも、へんなことになったものだ」
 と、隊員たちは、さわぎ出した。全く不思議な出来事であった。かたい金属で出来たものが、いずれも、ぐにゃぐにゃになって、とけて流れるのであった。
「博士、えらいことになりました。一体、どうしたのでしょう」
 と、新田先生が、横から心配そうにたずねた。
「うん、察するところ、火星兵団では、金属をとかす怪力線を使っているらしい。あのぴかぴか光るのがくせものだ。とにかく、ここにいては、きけんだから、ひき上げたがよい。おい、大江山隊長ざんねんだろうが、ここはひとまず、ひき上げたがいいぞ」
「そうですか。ひき上げなければなりませんか。ここまで攻めたてたのに、ざんねんだなあ」
 そうこうするうちに、ありとあらゆる金属がぐにゃぐにゃになり出した。十号ガスのピストルは、ことごとく地上に落ち、帽子のきしょうも、金ボタンも、みんなとけて落ちるのであった。
「こいつはひどい」
「これでは、火星兵をなぐりつけることも出来ない」
 そこで大江山隊長は、ついに心を決し、
「総員、いそぎひき上げろ!」
 と、命令を出した。
 一同は、その命令にしたがって、ひき上げをはじめた。すべるように、山の斜面を下りていく。蟻田博士も新田先生も大江山隊長も……。すると、火星兵どもは、あやしげな声をあげて、はやしたてるのであった。
 ざんねんながら、大江山突撃隊は、一たんひきあげる外なかった。
 火星兵団が、あやしい光線を出して金属をとかすということは、これまでにも、外国の例にあったことでもある。しかし、日本において、これがはっきり見られたのは
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