を防ぐためだった。その防圧胴が、蟻田博士発見の十号ガスのため、とろとろととけて、湯気のように蒸発してしまうものだから、火星人は赤はだかの上に、地球の空気の強い圧力を受けて、一たまりもなく押しつぶされてしまうのであった。
何という痛快な出来事であろうか。
「博士、すばらしいですなあ。これこの通りに火星人のやつ、みんな死んでしまいました」
と新田先生は、喜びに声をふるわせて言った。
「うん、これなら、まず使いものになるわい」
蟻田博士は、死んだ火星人の体を、前かがみになって、よく見ながら言った。
「蟻田博士、そのあたりに、もっと火星人がおればいいのですがねえ」
と、新田先生は、ガスピストルを手にして、ものたりない顔で、あたりを見まわした。たった二、三発撃ったくらいでは、あまりにもの足りない。
「火星人よりも、そこに倒れている大江山課長を助けてやれ」
博士は地上を指さした。
「そうだ、大江山捜査課長が、火星人にやられていたのでしたね。ガスピストルが、あまりよくきくものだから、つい忘れていました。失敗失敗」
と、新田先生は赤い顔をした。
そこで二人はまず第一に、気をうしなって倒れている勇敢な大江山課長をだきおこし、背中をさすって、えいと活を入れた。
「ううん、ああ、さあ来い!」
課長は、きかない体をむりに動かして立とうとする。
新田先生は、それを押さえて、
「大江山さん、そう興奮しないで気をたしかにもって下さい」
と言えば、課長は先生を見るより、さらに強く興奮して、
「いや、放せ。火星人などに負けてたまるものか。よくもおおぜいの部下を殺したな。日本人は、最後の一人となっても戦うぞ」
と、なおも先生に、つかみかかろうとする。
「大江山さん。そんなに興奮しちゃいかん。わたしだ、新田ですぞ」
「新田だ? 新田の声のまねをしても、きさまは火星人だ」
「ちがう、ちがう」
蟻田博士が、ふと気がつき、
「おい、新田、火星人とまちがえられるのは、その服装がいけないのだ。もう火星人はいないから、服装をぬいだがいい」
「ああ、なるほど。どうも今日はあわてていけない」
と、新田先生はあわてて帽子をぬいだ。
帽子をぬげば、ははあ新田先生だなと、誰でもわかる。大江山課長も、そこではじめて、ほんものの新田先生に、かいほうされていたことに気がついた。
そこへ、先生と博士が寄って来て、傷口に、マントを破って、かりの繃帯をする。
「これは新田先生、たいへんめずらしいが、どうしたのかね」
「いや、お話をすれば長い話があるのです。しかし、短く言えば、課長、喜んで下さい。蟻田博士が、火星兵団の奴らをやっつける、すばらしい熔解ガスを発明されたのです。そこらにころがっている赤黒い怪物は、みんな蟻田博士の発明された十号ガスのため、やっつけられてしまったんです。どうか喜んで下さい」
新田先生が、早口で説明すると、課長は、
「なに、蟻田博士が発明したって? あの博士がかね」
新田先生は驚いて、そばにいる博士の顔を見た。
博士は、ただ笑っている。
「ねえ、課長。わたしたちは思いちがいをしていたのです。博士はりっぱな人物です。そうして人類の大恩人ですぞ」
「それは、どうかな」
博士は、にが笑いをして、やむなく課長に声をかけた。
「おい、大江山さん。そのおかしな博士は、ここにいて、あんたの手に繃帯を巻いておるよ。わしのことは後でゆっくり新田から聞くがいい」
「やあ、あなたは蟻田博士……」
「驚くことはないよ。それよりも、いよいよ明日から全国の火星人征伐をやりなさい。十号ガスはたくさん用意があるから、いくらでもあげる。今夜は休んで、明日突撃隊でも作って、その先頭に立つがいい」
と言って、博士はすたすた引返した。
ああ、十号ガスのすばらしいききめ!
ガスピストルやガス銃を持った突撃隊が、警視庁に勢ぞろいをしたのは、翌日のおひる近くであった。
ガス弾の原料は、博士の屋敷あとへいくと、いくらでも出て来る。博士は地下の原料タンクから地上まで鉛管を何本も出して、ポンプで吸出すように仕掛を作っておいたから、雷管のついた薬莢《やっきょう》さえあれば、いくらでもガス弾は作れるのであった。
「突撃隊、集れっ」
勇ましい号令をかけているのは、大江山課長だ。
昨夜課長は何事ももうこれまでと思い、部下のとむらい合戦のつもりで火星人の中に斬込み、死力を尽くしてはなばなしく戦い、そこで死んでしまうつもりだった。そんな悲壮な決心を固めた課長は一夜明けるとたちまち元気を取返し、さっそく博士にすすめられた通り突撃隊を編成し、これに博士の発明したガス弾を持たせ、火星兵団に大逆襲をこころみようということとなった。そうして今や一切の用意は出来上ったのだ。
「今からまず帝都附近一帯に
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