える黒いものは何だ」
「え、ああ、あの黒い点のようなものか。風船でもなさそうだが、事によると……」
 と、首をかしげているうちに、空中に浮かんでいる黒い風船のように見えた黒点は、見る見る大きく広がり出した。
「あっ、火星兵団だ!」
「うん、やっぱりそうだったか。おい、火星兵団の大襲来だ!」
 と言っているうちに、その大きく広がった黒い斑点の中には、さらに小さい粒々の黒点が、たくさん集っていることがわかり、襲来した火星兵団の宇宙艇の数は二、三百だということがわかった時には連合脱出隊のロケットは完全に針路をおさえられてしまった。そうして次の瞬間には、火星兵団の宇宙艇隊は、ロケット隊のまん中を刺貫《つら》ぬくように飛込んで来た。勝ち負けは、その瞬間にきまってしまった。
 せっかく力を合わせて編成した連合脱出隊のロケット五百台は、火星兵団のため、空中に全滅してしまった。
 この悲報は、全世界を打震わせた。
「今度は、大丈夫だと思っていたのに……」
「あれでいけなかったら、われわれ地球人類は、絶対に火星人に降服する外はない」
「もっと早くから、対火星戦を、考えておくんだったな」
 と、各国の責任者たちは、無念の涙をはらはらと落しつつ、この惨敗のあとをふりかえった。
 ロケットに乗せて貰えない連中は、ロケットが、地上から飛出していくたびに、自分がいつまでたっても、地上に取残されていることを不満に思い、飛んでいくロケットのあとをうらめしそうに、そうしてうらやましそうに見送ったものである。ところが近頃になっては、彼らはもうそのような、うらめしそうな目附はしなかった。それは出ていくロケットというロケットが、ことごとく火星兵団のため空中でとけてしまったり、地上に追帰されたからである。彼らはニュースにより、うまく地球から脱出したロケットが、まだ、ただの一台もないことを、はっきり知ったからである。
 打続く火星兵団の勝利! そうして地球軍の惨敗。
 しかも、モロー彗星は、そんなことにはおかまいなく、刻一刻と地球に近くなって来た。
 地球の上には、こうして二重の苦難がおおいかぶさって来たのである。地球と地球人類とは、もはや、自分たちの『死』を覚悟しなければならない時が来たように見える。
 だれか、この大危難を救う者は出てこないであろうか。救世の英雄の足音は、まだ少しも聞えないようである。
 ああ、絶望の地球!


   51[#「51」は縦中横] 博士の大決心


 新田先生は、蟻田博士の地下研究室の中にあって、ただもういらいらしていた。何とかして心を落着けたいと思うが、今までのように心がしずまらない。そうでもあろう、モロー彗星との衝突の日まで、あとわずか一週間しか残っていないのであるから……。
 新田先生は、落着きはらって仕事をつづけている蟻田博士が、うらやましくもあり、腹が立っても来る。
「博士。もうあと一週間で、この地球が粉々にとびちってしまうというのに、博士は何をそんなに熱心に研究しておられるのですか」
 博士はしきりに電気火花をじいじい言わせて、ガラス管の中にある青黒い紐のようなものにあてていた。
「しずかにしていてくれ。わしの研究の、じゃまをしてはいかん」
 博士は、目盛を直しては、またじいじいと電気火花をとばし、ガラス管の中をのぞきこんでいる。
「しかし、博士。……」
「こら、だまっておれというのに……」
 博士は、新田先生が話しかけるごとに、きびしく叱りつけた。一体博士は、何をしているのであろうか。
 新田先生は、ついにだまってしまった。
 博士は実験をくりかえしていたが、そのうちに、たいへん驚いた様子で口を大きくあけ、手のひらを打った。
「うむ、やっと思うように行ったぞ!」
 博士は、ひとりごとを言った。
 新田先生は、博士のうしろから実験台をのぞきこんだ。
 博士はガラス管を指先につまみあげて中をのぞきこんだ。青黒い紐のようなものの一部が、赤く焼けたようになっている。
「これだ、これだ」
 博士は子供のようにおどり上った。博士は実験に成功したらしいが、それは一体どんなことであったろうか。
 蟻田博士が躍り上って喜ぶなんて、よくよくのことである。
 博士の研究は、ついに完成したらしい。
 一体、博士は、何を研究していたのであろうか。
 新田先生は、博士が喜んでいるそばへ、恐る恐る近づいた。
「博士、御研究が、うまくまいりましたか」
 と、先生が声をかけると、蟻田博士は後をふりかえって、
「ややっ、お前がいたのか……」
 と、急に不機嫌になった。博士は、自分の研究を他人に知られるのが、いやなのらしい。
 新田先生の心は、ちょっと重くなった。博士と自分とは師弟の間がらであるのに、なぜ、こう博士はいやな顔をするのであろうか。
 先生は、この
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