宙艇五台が飛出した。そこでロケット百台と宇宙艇五台の大空中戦が始ったが、気の毒にも、ロケットは見る見るうちに空中でとろりとろりと溶けだした。やがて四十台ほどのロケットは空中で溶けて散って、あとかたもなくなり残りの六十台のロケットは基地へ引きかえした。科学国ドイツの技術を総動員しても、火星人のつくった宇宙艇には、かなわなかった。
モロー彗星は、いよいよ近づいた。
地球から見ると彗星の頭は満月の二倍ぐらいに大きくなった。
夜分だけしか見えなかったその彗星は、このごろでは、昼間も空中にうっすらと姿が見えるのであった。
地上の人間は、日毎夜毎《ひごとよごと》にモロー彗星の怪奇な姿におびやかされ、神経衰弱にならない者はないと言っていいほどであり、おかしくなる者が平年の百倍千倍にもふえていった。
モロー彗星の尾は気味のわるい青白い光を放った。天空を大きな川のように流れていたが、その形はいつも同じではなく、風にふかれる煙のように方向が変り、形が変った。それは太陽の影響によって、ふき飛ばされるのだと学者は説明した。
このような、怪しげな天空の下に、地上の人々がだんだん望を失って来たのも、無理のないことであった。
しかし、いつの世にもそうであるように、どんな悪い世の中のありさまの時にも、決して負けない人間もいた。いや、かえってそういう苦しい困った時に、元気や勇気が出て来る人間がいた。
日本人とドイツ人とイタリヤ人とアメリカ人とは、なかなか勇敢な人種であった。
ドイツでは、前にも言ったように、かなりすぐれたロケットを百台も空に飛ばしたけれど、火星兵団の宇宙艇のために、すっかりやっつけられてしまった。しかしそれにもこりず、ドイツでは、また二回目の地球脱出ロケット隊が編成せられ、またもや大空に飛出した。
だが、気の毒にも彼らは、やはり火星兵団の敵ではなかった。最後は、この前と同じように、語るも悲惨なことになり終った。
しかし、負けじ魂を持ったドイツ人は、さらに、次から次へと地球脱出隊を編成していったのである。もしや、ただの一機でも無事に地球外にのがれてくれるかと、彼らはそれを心待ちにしていたのだ。
ドイツのすぐれたロケットによる地球脱出隊が、次から次へ悲惨な最期をとげている一方、イタリヤでも、アメリカでも、同じような脱出がこころみられた。が、その結果は似たりよったりで、ついに火星兵団に勝つことは出来なかったばかりか、地上における火星兵団の基地攻撃さえ、うまくいかず、大損害を受けた。
「どうにも手段がない。どんなことをしてみても、火星兵団を打破る見込は立たない」
「仕方がない。この上は世界同盟をつくり、各国の智慧者を集めて、火星兵団の暴力に手向かう方法を考え出すことにしようじゃないか」
「それがいい。それの外はない」
その昔、地球の上で、互にはげしい戦争を交えた各国も、こうなっては、にらみ合ってもいられず何とかして手をにぎり合って地球総力戦の体制を作り、火星兵団に対抗するより外途のないことが、彼らにも、はっきりわかって来た。
「そんなことを言っても、今から寄合をして、いい考えを出したんじゃ、もうおそいよ。そんなことは、もっと早くから気がつかなければならなかったんだ」
「だって仕方がないよ。今になって、やっと地球総力戦の体制をつくることに気がついたんだ。それに、今まではお互に各国とも、にらみ合っていたんだから、そうかんたんに一しょにはなれないよ」
各国の足並は、まだみだれがちであったが、とにかく、日一日と、地球総力戦の体制が、まとまって来た。
その結果、あと二日後には各国のロケット隊が、連合の編隊をつくり、その数も五百台というたいへんな数で、一気に地球を飛出し、金星へ向けて飛行しようという相談がまとまった。そうして、この連合脱出隊のことは、火星兵団には、ぜったい洩れないように気をつけ合ったのである。
連合脱出隊のことは、極力秘密を保たれてあった。
いよいよその日、各国のよりすぐったロケット隊は、空中の某点に集合することを、あらかじめよくうちあわせておいて、めいめいその基地を出発したのであった。
その基地といっても、一国に一箇所では目に立つからというので、方々に分けた。アメリカのごときは全国六十五箇所に基地を作り、そこから二台または三台ずつのロケットを、同時に飛出させたのであった。
彼らは、無事に空中の某点に集合することが出来た。
「ふむ、うまくいったぞ」
と、乗組員たちは、五百台からのロケットから成る堂々たる脱出隊の威容をながめて、にっこりと笑ったのであった。
そこで、連合脱出隊は一せいに舵をとりなおして、金星を目あてに飛行を始めたのであった。
ところが、それからものの五分もたたないうちに、
「ああ、あそこに見
前へ
次へ
全159ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング