空気に押しつけられて、小さくちぢまってしまったのだ。だから、あのように小さな体になってしまったわけだ。
頭のすぐれた火星人は、人間に近づくためには、そのままの、自分の姿を人間に見せては損だと思い、怪人丸木のように、また山梨県の山中に着陸した火星兵団の兵士たちのように、胴の上に、つくりものの首をつけたり、これもつくりものの手や足をつけたりして、ひたすら人間の形に似るようにつとめていたのであった。
「何という用意のいい火星人だろう」
と、新田先生は三度感心の声を放った。
「さあ、あなた、感心ばかりしていないで、私たちを早く助けて下さいよ、ねえ」
と、檻の中の火星人が、先生にさいそくをした。
「おお、そうだ。こうなる上は、善良な君たちを、ぜひ助けてあげたいが、一体蟻田博士は……」
と言っている時、後で咳ばらいが聞えた。
42[#「42」は縦中横] 人間ぎらい
「何だ、新田じゃないか。お前はけしからん奴だ」
と、しわがれた声が、先生の背中の、すぐ後でした。
「あっ、蟻田博士!」
いつの間に、ここへはいって来たのか、蟻田博士が、先生の後に、ぬっと立っていた。
「博士、どうしてここへ?」
「どうしてここへ? ふん、あたり前だ。ここは、わしの研究所なんだからな。他人のさしずを受けるものか」
と、博士は相変らず、気みじかで、ずけずけした口をきく。
その時、新田先生は、久方ぶりに見る博士の姿が、この前見た時とは違い、大へんやつれているのをいたましく思った。すなわち、腰はまがり、顔はさらにやせ、真白の頭髪はぼうぼうとのび、あのかっこうよくかりこんであったあごひげも、のびほうだいにのびて、すり切れた竹箒《たけぼうき》のようになっていた。
(どうしたのだろうか。博士のこのやつれようは?)
博士は、鼻の頭にずり落ちそうになる眼鏡を押しあげながら、
「おい、新田。今、聞いておれば、お前はここにいるロロと、何か話をしていたじゃないか。お前はいつ、そのような勉強をしたのか、いやさ、どうして火星語を話せるようになったのか」
博士は、不思議に思っているらしい。
新田先生は、今はもう仕方がないと思い、変話機を出して、これまでのいきさつを、かいつまんで、博士に報告したのであった。
博士はうなずきながら、おとなしく、先生の話を聞終った後、
「ふうん、お前にしては、お手柄じゃ。その手柄にめんじて、わしは、これまでのお前の罪を許して、もう一度、門下生として教えてやろう」
博士は、横柄《おうへい》な口をきいた。
蟻田博士のきげんが、大へんいいので、新田先生は、この時とばかり博士に聞いた。
「博士、モロー彗星が地球にぶつかる日が、いよいよ近づきましたが、どうにかして人類を助ける工夫はないでしょうか」
博士は、ひげをふるわせ、新田先生の顔をじろりと睨み、
「助ける工夫はない。たとえ、助ける工夫があっても、今日のような、おろかな人間どもを助けることは無用だよ」
「そ、そんな、らんぼうな考えは、よくないと思います」
「わしは、今日の人類には、あいそがつきているのだ。そんな連中を助けてみたって、始らんではないか」
「博士、そんなことを言わないで、人類のために力を出してやって下さい。博士が本気になってやって下されば、モロー彗星衝突の惨禍から、かなりたくさんの人間が救われるのではないでしょうか。救われれば、どんなに心がけのわるい人間でも、心を入れかえるに違いありません」
「わしは、そんなことを信じない。助けを乞う時には、ちょっといい人間になるが、助けられてしまったあとは、またもとのように、だらしのない人間に戻ってしまう。ふだん自分勝手な、欲ばったことばかりをして、自分さえよければ、この地球がどうなってもいいなどと思っている、そんな心がけのよくない人間を、助けてみても一向つまらんよ」
蟻田博士は、ずけずけと地球の人類をやっつける。先生も、これには、とりつくしまがなかった。
そこで、話をかえて、
「博士、そこにいる火星人が、お帰りをまっていましたよ。何でも、体がわるいのだそうですね」
と言うと、博士は、
「おお、そうじゃった。すぐさま、手あてをしてやらにゃ」
と、檻の方へ近づいた。
「おお、かわいそうに。今すぐに、よくしてやるぞ」
地球人類は大きらいという博士が、檻の中の火星人に対しては、たいへんやさしくするのは不思議であった。
新田先生は、博士のすることを、じっと見まもっていた。
博士は、鞄と小さな紙づつみとを持って、檻の中にはいった。二人の火星人はまるい頭をあげて、ひゅうひゅうぷくぷくと、喜びの声をあげた。
博士は、奥の方に寝ていた火星人のそばによって、
「薬をやっと作って来た。何しろ火星の上とは違って、この地球の上には、なかな
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