りおろすのをとめた。
「ええっ、その減圧幕とは、どんなもの?」
いきなり減圧幕というのが、とび出して来たので、先生は面くらった。
「減圧幕というのは――つまり、私たちの体を、まもってくれているすきとおった幕だ。地球の空気は、たいへん濃いのだ。私たちは地球の空気の中に、そのままはいることは出来ない。強い空気の圧力のため押しつぶされて、小さくなって死んでしまうのだ」
怪物は自分の体の秘密について、不思議なことを語り出した。先生は、それを聞いているうちに、重大なことに、気がついた。
「じゃあ、君たちの国では、もっと、うすい空気の中で暮しているのだね」
「そうだとも」
「君たちの国というのはどこだ。もしや、君たちの国は火星じゃないのかね」
と、新田先生は、地底の怪物に尋ねた。
地球にくらべると、ずっと、うすい空気の中に住んでいるというから、火星ではなかろうかと思ったのだ。
すると怪物は、
「そうだとも。我々は、火星人なのだ。私はロロという名前だ。そばにいるのはルルだ」
と、たいへんなことを白状してしまった。
それを聞いた新田先生の驚きは、非常なものであった。
「ええっ、君たちは火星人か。あの、火星人……」
と、先生は思わず大きな声で叫んだが、その後で首を左右に振り、
「うそだ、そんなことはうそだ。私は、これまでにたくさんの火星人を見たが、君たちのような、そんなぐにゃぐにゃの体をしてはいないし、またそんなに小さくはない。だから、うそだ」
と言った。すると怪物は、たいへん不満らしい言葉つきで、
「私たちが火星人でなければ、どこにほんとうの火星人がいるものか。私たちは火星人だ」
「いや、違う。火星人は、大きな強い胴を持っていて、背も我々人間と同じくらいだ。それから、ちゃんと人間と同じような首を持っている。もっともその首は、よくころげ落ちるので、ちょっとへんだが……」
と、そこまで言うと、先生の話を聞いていた火星人は、急にからからと笑い出した。
「何がおかしい」
「いや、それでわかった。あなたの言うのは、火星兵団の隊員のことだろう」
「君たちは、火星兵団を知っているのかね」
「もちろん知っているよ。しかし、人間なんて、ばかなものだね。私たちと火星兵団の隊員とが、同じ火星人だということに気がつかないのかしら。ほっ、ほっ、ほっ」
「君たちと火星兵団の隊員とは、同じ火星人だって?」
新田先生は、どうしても信じられないと言う顔で、地底の怪物に問返した。
「ほっ、ほっ、ほっ。まあ文化の低い地球人類には、そのわけがわからないのも無理ではないがね。ほっ、ほっ、ほっ」
怪物は、檻の中で、からだを奇妙にくねらせて笑うのであった。それは、まるで川岸に生えている蘆《あし》が、風にゆれるようなかっこうであった。
「そのわけを話したまえ。でないと、私は君たちを助けるのを、やめてしまうかも知れないよ」
と、先生は、わざと怪物をおどした。
「ま、待ってくれ。あなたでも蟻田博士でも、地球人類はすぐに怒り出すから嫌さ」
と、怪物はぶつぶつ言って、
「じゃあ、そのわけを言うがね。たいしたことではないのだ。さっきも言ったように、私たちが、地球の上でちゃんと生きているのは、この檻の内側に、目には見えないが蟻田博士の発明した減圧幕を張ってあるためだ。ところが、火星兵団の連中は、こんな便利な減圧幕のあることを知らないために、あの大げさな入れ物の中に、はいっているのだ」
「入れ物?」
「そうだ。入れ物だよ。入れ物というのは、ほら、さっきあなたが言ったではないか。たいへんかたい胴! ドラム缶のような胴! あれがその入れ物なんだよ」
「火星人がはいっている入れ物? あのいかめしい胴中《どうなか》に火星人がはいっているのかね。地球の空気があんまり濃すぎるので、あの胴のような入れ物の中に、火星人がはいっているのかね。ほんとうかね。いや、ほんとうらしい。ふうん、それは驚いた。へええっ」
新田先生は、驚きをかくそうともせず、しきりにため息をついた。
「ふうん、そうか、火星人の体に、そんな秘密があるとは気がつかなかった」
と、新田先生は、地底にうごめく火星人の話を聞いて、感心のあまりひざを打った。
そういうことが、ほんとうだとすると、いろいろなことがわかる。小学生たちが生けどった火星人がおしまいに胴中一つになってころげ廻るうち、折から行進して来た戦車にぶつかって、胴中が粉みじんに割れ、その時、中からゴムでこしらえたたこのようなものがころがり出て来たところを、大きな犬がくわえて行った謎のような事件があったが、今、火星人の話を聞いて、あの不思議な謎も、たちまちに、解けてしまう。つまり、火星人を、地球の濃い空気の圧力からまもっていた胴がこわれ、その中にいた火星人は、たちまち
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