、あなたには、博士がどこにいるか、わかっているのかね」
 博士はどこにいるか?
 もちろん、新田先生は、博士の居るところを、はっきり知らなかった。だが、先生は、あるところへ見当をつけていた。


   40[#「40」は縦中横] 地底《ちてい》の声


 行方不明の蟻田博士を探すために、新田先生は、ただ一人で出かけた。
 この夜更、しかも火星人が人間狩をはじめていて、往来のあぶない時にもかかわらず、先生は、だんぜん出かけたのである。
 大江山課長は、先生の強い決心を聞いて、ぜひとも警官を五、六人、連れて行くようにとすすめたのであるが、先生は、考えるところがあるから、一人で行くと言って、護衛の警官のついて来るのを断った。
 さて、新田先生はどこへ行くのであろうか。
 先生の足は、博士の研究所のあった麻布の高台へ向いた。夜の町を歩く先生は、度々、非常線にひっかかって、警官からきびしい取調を受けたが、その度に大江山課長から貰った通行証を差出して、そこを通して貰った。ついに、先生が博士の研究所跡にたどり着いたのは、真夜中の二時のことであった。
 研究所跡!
 あのりっぱな天文台の円い大きな屋根も今はない。あの日の大地震で、すっかり崩れてしまったのである。先生が勉強していた本館も、今は地上に崩れてしまって、石塊の間からは、雑草が芽を出していた。雲間をもれて来たうす明かるい月光が、蟻田博士の研究所跡を照らし出して、見るからに、はだ寒い荒涼たる風景の中に、新田先生は気もぼんやりして、たたずんだのである。
「ああ、これでは博士を見つけることなんか、思いもよらない!」
 新田先生は、深いため息とともにつぶやいた。ひょっとしたら、研究所跡のどこかに、博士が小屋がけでもして、がんばっているのではないかと思ったが、見渡したところ崩れた跡はそのままであって、博士の住んでいる様子はどこにもなかったのである。
 蟻田博士の天文台の崩れたあとに、月光は、ぼんやりと光をなげている。まるで墓場のような風景である。ただ一人そこにたたずんでいる新田先生の心には、言いあらわせないほど、いろいろの思いが、わいて来た。
 博士は、どうしているのであろうか。
 そうして、博士は一体いい人なのか悪い人なのか。そうして、また大江山課長の言うように、ほんとうに火星のスパイをはたらいているのであろうか。
 博士の研究所は、このように、めちゃめちゃにくずれている。だから、博士はどこへ行ったことやらわからない。とにかく、こんなところに博士がとどまっていないことは、たしかであろう。
 先生は、深夜にせっかくここまでやって来たが、こんなわけでかなり気を落した。こうなれば、どこか別のところを探しに行くより外に仕方がないと思った。が、しかし、何か博士の行方について、手がかりになるようなものが落ちていないかと、あたりを見まわした。
 その時、先生の目にとまったものがある。
「おや、これは、後から掘りおこした穴のようだ」
 先生の足もとには壁がくずれて、コンクリートの塊や木材が、ごたごたと折重なっていたが、そのコンクリートの塊の間に、人間がくぐれるくらいの穴があいていたのである。それは、ちょうどくずれおちた屋根の下になっていて、遠くから見たのでは、穴のあいていることがわからない。先生は俄に元気をとりもどした。
(ひょっとすると、この穴の中に誰かが、かくれているのではなかろうか)
 そう思って、新田先生は、からだをかがめると、穴の中の様子をうかがった。
(おや、何だか、穴の中で、かすかに人のこえがするようだ)
 先生は、耳をすました。
 穴の中からもれて来る話声は、たいへんかすかであった。新田先生は、全身の注意力を耳にあつめて、それを聞きとろうとつとめた。
 だが何を話しているのか、先生にはよく聞きとれなかった。ただ、その話声は、かなり深い地底から聞えてくるものであるらしく思えた。それにしても、不思議な話声ではある。
(どうも日本語ではないらしいぞ。一体誰が話をしているのであろうか)
 先生は、二重の不思議にぶつかった。
 穴の中へはいって行こうとは思ったが、中から聞えるのが、日本人の話声でないことがわかると、たいへん気味が悪くなって、はいる決心がつかなかった。
 その時、新田先生は、ふと心の中に思い浮かべたことがあった。
(まさかとは思うが、あるいは……?)
 と、持っていた変話機を耳にあててみたのである。すると、どうであろう、穴の中の話声が、たちまち日本語にかわったのである。
(あっ、やっぱりそうだった。中にいるのは火星人だったのだ!)
 先生のおどろきは、たとえようのないくらい大きかった。くずれた蟻田博士邸の下に、火星人の話声がしている!
 先生は、変話機をかたく、にぎりしめて、地下から聞えて
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