来る話声を聞きとろうと、一生けんめいだ。
「……いやだなあ。これはいよいよくさって、落ちてしまうだろう」
「ふん、なるほど。だいぶんひどくなったねえ。何とか手当をしないといけない。博士は、このことを知っているのか」
「知っているよ。博士は、薬を作っているのだ。だが、それはいつになったら出来上るのか、見当がつかないんだ」
「困ったねえ」
 地底からは、火星人の言葉で、そんなことを話し合っているのが聞える。
(火星人が、この穴の中に、かくれているのだ!)
 新田先生は、大変な発見をしたのであった。そんなことがあろうとは、今の今まで夢にも考えていなかった。
 しかし、不思議なのは、火星人の話である。それによると、二人の火星人の中の一人が、何か病気にかかっているらしい。それは、体のくさる病気のようである。博士が、その病気をなおすために、薬をつくっていると言う。博士というのは、たぶん蟻田博士のことであろう。
 くわしいことはわからないが、博士がまだちゃんと生きていることと、そうしてこの附近に姿を現すことが、あきらかになったので、新田先生はますます元気を取りもどした。もう少し、しんぼうしておれば、蟻田博士にめぐりあうことが出来そうである。
(よし、では、中へ下りて行ってみよう)
 先生は決心した。どういうわけで火星人がこんなところへはいり込んでいるのか、そのわけはわからないが、とにかくひとつ、あたってくだけろである。
 先生は立上った。そうして、なるべく音のしないように気をつけながら、足を穴の中に入れた。
 こわれたコンクリートや石塊やが、ごつごつとつき出ていて、その上に足をふみしめ、手でつかまりながら、下りて行くのであるから、なかなか大変なことだった。だが、豆電灯がついているので助った。
 少し行くと、ちゃんとした階段のところへ出た。
(階段だ!)
 その階段には、先生は見覚えがあった。上から下りて来て、急に右へまがる階段である。それは博士が秘密にしていたあの部屋の階段であったのだ。
(ほう、こんなところにつづいていたのか)
 と、新田先生は、うれしいおどろきに、目をまるくした。階段の下には一体何がある?
 地下階段のまん中に立って、新田先生は、ずっと前のことを思い出した。
 それは、蟻田博士の留守の時、千二少年と二人して、この地下階段を下りて行ったことがあった。その時、この下で何だか、えたいの知れない生物を見たおぼえがある。
 その時、一しょにいた千二少年は、今はここにいない。
 どうなったであろう、千二少年は?
 少年はこの前、この同じところで怪人丸木のため、さらわれてしまったのであった。どうしたのだろう。千二少年は? 無事で生きておればいいが、死んだのではなかろうか。もし千二少年にめぐり会えれば、火星兵団の秘密が、もっといろいろとわかって都合がいいことであろうに。
 先生は階段のところでたたずんだまま、しばらく千二少年と一しょにここへ来た日の思出にふけって、胸がしめつけられるようであったが、やがて、ぽんと胸をたたき、
「いや、過ぎたことを、そんなにくよくよ考えていても、しかたがない。今は、地球の人間を救うため、そうして火星兵団の暴力に手向かうため、どんどん働かなければならないのだ。めめしいことを考えて、涙なんか出していてはならない時なのだ!」
 先生は、自分の心を自分ではげました。そうして、覚悟をきめると、階段をしずかに下りて行った。
 階段の下には何がある? 前に来た時と同じになっているのであろうか。
 下りながら先生は、はっと気がついた。大変重大なことを忘れていたのである。
「これは、うっかりしていた。この地下室から聞えて来る話声は、怪人丸木の声ではなかろうか。それだったら、大変だ」
 先生の足は階段の途中で、しぜんととまってしまった。
 新田先生は、ふたたび自分の心を鞭打った。
(私は、もっとしっかりしなければならない。こうなれば、怪人丸木であろうが、誰であろうが、ぶつかってみるほか、みちはないのだ。我々地球人類の幸福のために!)
 新田先生は、胸の中にそう叫ぶと、今度は決心もかたく、しずかではあるが、たしかな一歩一歩をふんで、地下へ下りていった。
 階段は、右の方へまがっていることも、前と同じだった。下へ下りていくうちに、ぷうんと妙なにおいが先生の鼻を打った。それも、この前かいだのと同じにおいであった。
 先生は、なおも下へ下りて行ったが、急にあかりがとどかない廊下へ出てしまった。
(これは足もとがあぶない!)
 と思ったものだから、先生はポケットに入れて来た懐中電灯を取出そうと思って、そこに立ちどまった。
 その時、先生の足もとが、ぐらぐらと動いた。
「あっ!」
 と叫んだ時は、もうおそい。先生の体はかたむいて、がらがら
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