おうとも、ぜひとも、警官隊でもって、火星兵団をつかまえるようにと厳命しておられるのだ」
「課長さん。それはどう考えても無理な話ですよ」
 と、新田先生は、正直に考えを言った。しかし、先生とて総監や課長の苦しい胸の中を察しないではなかった。
 火星兵団の先遣隊を討伐に向かった決死警官隊は、どれもこれも、ひどい損害をこうむり、本庁には次々に、全滅の報告が舞いこんだ。
 東京市内の警戒のため、夜通し町の辻に立って、任務をつづけている大江山課長は、その報告がやって来るたびに、さらに顔を暗くした。
 新田先生は、いつも課長のそばについていたが、課長の苦しそうな表情を見るにつけて、先生もまただんだん苦しくなって来た。
(これは、こんなことをしていたのではいけない。何とか、ここで我々がもりかえさなければ……)
 先生は、どうしたらよいかとそれを考えたが、すぐに名案も浮かんで来ない。
「ねえ、新田さん。せめて佐々刑事に連絡をとる方法がないものかねえ」
「さあ、困りましたな」
 と、先生は首を振って、
「もう佐々さんが、山から下りて来てもいいころなんですが、何をしているのでしょうね」
 新田先生は、佐々刑事が火星のボートに乗って、宇宙にとび出したことを知らない。先生が知らないくらいだから、大江山課長が知るはずがない。
「では、もう一度、私が山へ上ってみましょうか」
 と、先生は言出した。
「いや、それはいけない」
 と、大江山課長は強く言って、
「佐々は、火星人に殺されてしまったのかも知れないのだ。この上あんたが行って、またそれっきりになったら、どうして火星人を攻めて行ってよいか、見当がつかなくなる」
「だって、私などが……」
「いや、この上は、火星人のことを少しでも知っている者は、大事にしておかなければならない」
 先生は、その時、はっと気がついた。
 蟻田博士のことを。
「大江山さん。蟻田博士のその後の消息は、わかりましたか」
 大江山課長は、帽子のあごひもをしめ直しながら、
「その蟻田博士のことなんだが、我々も、一生懸命にさがしているんだが、手がかりなしでね、全く残念なんだ。博士が見つかれば、我々は、きっと何か火星人について、大切なことが聞出せると思うんだが……」
 と、ほんとうに残念そうに言った。
「大江山さん。あなたは、蟻田博士を、どう思っているのですか」
「どう思っているとは?」
「つまり、博士はいい人だとか、悪い人だとかいうことです」
「さあ、そんなことは、うっかり言えないがねえ」
 と、課長はつつしみ深い口ぶりで、
「ここだけの話だが、前には、蟻田博士は、おかしいと思っていたんです。しかし、こうして博士の予言通りに火星兵団が攻めて来た今日、私は博士はおかしいとばかり、きめてしまうわけにはいかんと思う」
 大江山課長は、前のことを思い出しながら、しんみりと、ただ今の気持を先生に話した。
「じゃあ、蟻田博士が、とうとい大学者であることを、大江山さんはみとめたわけですね」
「まあまあ、それに近いと思って下さい。だが、我々は博士について、全く気を許してしまうわけにはいかないと思っている」
「え、気が許せないというのですか。それはまた、なぜです」
「それはつまり、これもここだけの話だが、蟻田博士は、火星のスパイではないかと、そんな気もするのだ」
 大江山課長は、蟻田博士が火星人のことなどをよく知っているが、火星のスパイではないかと思うと言う。
 それを聞いていた新田先生も、実は、自分の先生である蟻田博士が、いい人であるか、それとも悪い人であるか、はっきりわからなかったのである。博士の日頃の行いは、あまりにとっぴである。人間ばなれがしている。博士から、教えを受けていた昔のことを思い出してみるのに、博士は、ただもう学問のことに、いつも夢中であって、学問のためなら、その外のどんなことでも、捨ててしまうというたちであった。だから、学問のためなら、大江山課長がうたがっているように、或は、火星のスパイとなって、地球人類を陥れるかも知れないと、そんな風に思われて来るのだった。
(もし、博士が、ほんとうに火星のスパイを働いているとすると、これは許しておけないことである。これはどうしても、博士を探し出し、ほんとうの気持をたしかめてみる必要がある。何しろ、火星の学問をおさめている学者として、博士以上のえらい人はいないのだから、ぜひとも、博士が火星の味方をしないように説きふせなければならない)
 と、新田先生は、ついに、はっきり自分の覚悟をきめたのだった。
「大江山さん。私は、これから行って、博士を探して来ます」
「何、博士を探しに行くというのですか」
 課長は、びっくりした。
「そうです。すぐ出かけます」
「それは、我々にとってもありがたいことだが、新田さん
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