い。うしろに集って、丸木と新田先生との話を、熱心に聞いていた火星人たちは、一時に立って先生に向かって来た。
「な、なにをするっ」
先生は、近よる火星人たちを、しかりつけた。
しかし、相手は大ぜいであり、こっちは一人である。もうどうすることも出来なかった。あっという間に、先生は、両手両足を、火星人たちに取られて、真暗な奥の方へ、引きずりこまれてしまった。そうして、やがてどさりと柔かい土の上に、なげだされた。
「あっ、いたっ!」
先生は、腰骨のところを、したたかに打って、痛さのあまり、しばらくは、呼吸《いき》が出来ないほどだった。
先生は、ぐったりとして、地上にへたばったまま身動きさえしなくなった。
それから、どのくらいたったか、わからない。そのうちに、先生は、ふと、眠りから、目ざめた。冷たい、ひやりとした土が、先生に、
(さあ、しっかりして下さい、先生)
と、励ますように、思われた。このしっとりとした土さえ、やがて間もなく、数十億年もすみなれた故郷を、奪われてしまうのだ。先生は、なんだか、涙もろくなってしまった。
先生は、起上った。
逃げることが出来たら、逃げだそうと思って、手さぐりで、はいだしていった。
しばらくはっていくと、ぼうっと薄桃色の光が見えた。
(しめた、あれが出口だろう)
と、はいだしていったが……。
穴の入口の、うすもも色の光りもの!
監禁のうき目にあっている先生は、ここを逃出したい一心で、これに近づいた。
すると、その光りものは火星人だということがわかった。
(しまった!)
と、思った時にはもうおそかった。
火星人は、くるりと後をふり向き、先生の方へのこのこ歩いて来た。そうして、右手をふり上げたかと思うと、びゅうんという、うなりとともに、何だか鎖のように固いものが飛んで来て、先生の背をぴしりと打った。
「ああっ!」
先生は、思わず悲鳴を上げて、そこへ、へたばった。
火星人は、またぞろ右手を上げた。
先生はそれを知っていたが、さっき強く打たれたいたみ[#「いたみ」に傍点]で、もう逃げることが出来ないのだった。
やがてまた強い一撃が、先生の頭の上に、降って来るかと、先生は目をつぶった。
しかし次の一撃は、いつまでたっても、上から、降って来なかった。
不思議に思った先生は、おそるおそる顔を上げた。すると火星人は、いつそこへ来たのか黒マントの丸木の前に、しきりに、憐みを乞うている様子だった。
丸木は、首を横に向けた。すると、前にかしこまっていたその火星人は、外へ出てしまった。丸木に叱られでもしたのであろうと、先生は思ったことである。
黒マントの丸木は、先生の方へ寄って来た。何か用事でもありそうな様子である。
新田先生は、立上って、身がまえた。
怪人丸木は、ずんずん前に寄って来る。彼の手には、妙な形の灯火《ともしび》がにぎられている。まるで竹筒のようでもあり、爆弾のようにも見える。
先生は、じりじりと下った。
穴ぐらの監禁室の中!
新田先生は、もうさがれるところまで、後さがりした。
それでも、黒マントの怪人丸木は、まだじりじりと先生に迫って来る。もうこれ以上、後にさがれない。先生はさっき丸木の言うことに、どうしても従わないと言ったので、丸木は大へんきげんを悪くしているはずだ。こうして、今また丸木が先生の前に迫って来たからには、いよいよ丸木は、先生の体に危害を加えるつもりではないか。
そう思うと、じりじりと穴の奥まで、追いつめられた先生は、もうどうにも助かる道がないように思った。先生は最後の勇気を出して、自分の鼻の先に迫って来た丸木の顔を、ぐっとにらみつけた。
「おや!」
この時先生は、非常におどろいた。急にくらくらと目まいを感じたほど、おどろいたのであった。
それは一体なぜだったろう。
丸木の眼は、いつも黒く色のついた眼鏡をかけていることは、誰でも知っている。今丸木はマントの下から手を出して、その眼鏡をとったのである。すると、その下から二つの眼が現れて、くるくると動いた。――生きている目だ!
火星人もそうであるように、怪人丸木もよく自分の首を下に落した。
ぽっくり下に落ちる火星人の首には、目玉がついているけれど、先に先生が発見したように、その目玉はガラス玉同様で、決して生きている人間の目玉のように動きはしないのである。ところが今、丸木の目玉が、くるくるぎょろぎょろと動いたので、先生は、びっくりしてしまったのだ。なぜ急に丸木の目玉が、生きている人間の目玉のように、動き出したのであろうか? 丸木だけが火星人として、特別仕掛のにせ首を持っているのだろうか?
先生は、丸木の動く目玉に、気を失いそうなくらいおどろいた。全く丸木という奴は、なみなみならぬ怪物だ。
前へ
次へ
全159ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング