「しずかに、声を立ててはいけない!」
怪人丸木が、とつぜん口を開いた。その声は、あたりをはばかるような低い小さい声だった。
先生は、二度びっくりであった。なぜなら怪人丸木の唇がたしかに動き、その中からは白い歯も見えた。丸木だけは、他の火星人と違って、作り物の首を肩の上にのせていないのか。
「……」
新田先生は、声もなく恐怖の色を浮かべた。全く、どんなに考えても、正体のわからない奴は、この丸木だ!
「新田先生、何とか返事をしなさいよ。おっとおっと、大きな声を出してはいけない。火星人だの、それから丸木なんかに知れると大変なことになる」
怪人丸木は、先生の耳のそばに口をつけて、ささやくように、こう言った。
「えっ、丸木に知れると大変だと言って……丸木は君じゃないか」
「違う違う。丸木じゃない。わしだよ。新田先生。わからないのかい」
「えっ、君は、誰?」
「わしだよ、佐々《さっさ》刑事だ」
「ええっ、佐々刑事? へえ、佐々さんですか。ほんとうですか」
新田先生は、あまり話が意外なので、信じてよいかどうか、大迷いのかたちであった。
「よくわしの顔を見たまえ。へんな仮装のお面をかぶっているが、わしだということが、わかるだろう。何しろ、こんな竹ぼらのような声を出す人間が、世間にそうたくさんあるものかね」
「ああなるほど、佐々さんだ。あっ、佐々さん、あなたはよくまあ、こんなところへ……」
と、新田先生は、喜びのあまり、佐々の手に、すがりついた。
「どうしてあなたは、丸木に変装したりなんかして、こんなところへ忍びこんだのですか」
と、新田先生は佐々に尋ねた。もちろん、大方そのわけは、察しがついてはいたが……。
「わしの任務かね」
と、佐々刑事は、仮装のお面をぬいで上にあげ、
「わしの任務については、くわしく言うことは、許されていないさ。大江山捜査課長にでも聞いてもらうんだね。しかし新田先生。わしは重大使命を帯びて、こうして火星人に近づいているんだ。わしは今、命がけで仕事をやっているんだ」
先生はうなずいた。なるほど、単身火星人の群に飛びこむなんて、命がけの仕事でなくて何であろうか。
「それで、その仕事と言うのは……」
「それはやっぱり、あまりしゃべれないけれど、とにかく先生、今夜これから、大変なことが起るよ」
「大変なこと? 佐々さん、それは何ですか」
「今夜の中に火星のボート群が、かなりたくさん、このへん一帯に着陸するだろうよ。火星人はいよいよその数を増して来るんだ」
「えっ、そうですか。それはどうも話が、早すぎますね。さっき私は、ぜひこの山中一帯をゆずってくれと、丸木に責められたんです。もちろん私が、うんと言わないので、丸木はおこっていました。その時の丸木は、まさか佐々さんじゃなかったでしょうね」
「違うよ違うよ。あれは本物の丸木だ。わしはかげのところから、そっと隙見をしていて、知っているよ」
と、佐々はにが笑いをして、
「そこで先生。わしは、いよいよ思いきったことをやるつもりだよ」
怪人丸木に変装した佐々刑事が、すこぶる、はりきっているのは、たのもしいことであった。とりこになっている新田先生も、佐々の話を聞いていると、自然に勇気が出て来るような気がした。
「ねえ、佐々さん、私は一つ、大変心配していることがあるんだが……」
「心配ごとって、それは何だね。早く言いたまえ」
「それは外でもない、千二少年の行方のことなんですがね」
「ああ、千二のことか」
「どうです、佐々さん。千二少年は、丸木につれられて行ったんだが、ここで見かけなかったでしょうか」
先生はどこまでも教え子の千二のことを、心配しているのだった。これも先生なればこそで、まことにありがたいことであった。
佐々刑事は、首を左右に振って、
「見かけなかったねえ」
「いないのでしょうか。一体、千二少年はどうしたんだろうな」
先生の目は、憂いに曇った。
「千二の行方も捜さなければならんが」と佐々刑事は言って、
「わしが課長から命ぜられていて、まだ果してないのは、蟻田博士が去年の大地震以来、どうなったということだ。君はその後、蟻田博士と会ったことがあるかね」
「いや、どういたしまして……」
と、新田先生は首を振って、
「何しろ私はあの大地震以来、つい先ごろまで、病院のベッドに寝ていたんですからねえ」
「ふん、なるほど。考えてみればあの大地震というやつが、我々の仕事をどのくらい邪魔したか知れない。いや、こんなぐちを、今言ってみても仕方がないがね。まあいいや。どんな災難であろうと、困ったことであろうと、もうおどろくものか」
佐々刑事は、立上った。
丸木の顔に似せた面をかぶり、黒い眼鏡をかけると、全く丸木そっくりに見える。
「もう、行くんですか」
と、新田先生は
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