刺さっているのだった。その爆弾|様《よう》のものは、表面からネオン灯のようなうす桃色の光を放っていたので、その輪郭は、はっきり見えた。
それは一体何ものであろうか。
2 漂《ただよ》う毒気《どっき》
天狗岩《てんぐいわ》に、斜に刺さっている爆弾のような怪しい物!
「あっ、あれは、なんだろう!」
と言ったきり、千二は、まるで石の人形のように、からだが、うごかなくなった。それはあまりに驚きがひどかったからだ。
でも、こわい物を見たいのが人情であった。千二は、ぶるぶるとふるえながらも、目を皿のように大きくして、そのうす桃色に光る爆弾様の巨体をじっと見つめていた。
すると、いた、いた。
その爆弾様のものの上に、なにかしきりに動いているものがあった。それは、俵のような形をしていた。うす桃色の光が、そこのところだけ影になる。つまり俵の影絵を見ているような工合だった。
「な、なんだろう、あれは……」
千二は、鉄管からはい出した。とたんに、なにかの毒気にあたったかのように、胸がむかむかして来た。
「あっ、苦しい」
彼は、また鉄管の中に、はいこんだ。すると、とたんに、気分はもとのようにすうっと晴れやかになった。
「どうも、へんだ。鉄管から頭を出すと、気分が悪くなる。これは一体どういうわけだろう」
でも、千二は、そのまま鉄管の中にひっこんではおられなかった。どうしても、あの怪しい物の正体を見とどけるのだ。
千二は、鉄管のかげにいると、気分が一向悪くならないのに気がついたので、こんどは用心して、鉄管の隙間から、目だけ出したが、果して思った通り、気分の方は大丈夫であった。
「うむ、あの怪物体から、何か気分を悪くするような毒気を出しているのにちがいない」
千二は大きくうなずいたが、そのとき、また意外な光景にぶつかった。
もう千二は、一生けんめいである。鉄管と鉄管との、わずかの隙に目をあてて、天狗岩の怪物体をにらみつけている。
その時、かの爆弾のような形の、大きな怪物体が、突然すうっと動き出した。いや、動くというよりも、横に倒れ出したのである。
「あっ、あぶない」
と、千二が叫んだ時には、もうかの怪物体は、天狗岩の上に横倒しとなって、ごうんとぶつかった。そうして、ぶつかった勢いで、こんどは、ぽうんと天狗岩からはねあがった。
「あっ、おっこちる」
千二は、手に汗をにぎって、怪物体を見つめていた。
すると、かの怪物体は、にわかにその光る姿を消してしまった。
「おや、どうしたのか」
と、千二がいぶかる折しも、どぼうんという大きな水音が聞えた。大地がみしみしと、鳴ったくらい大きな水音だった。
「ああ、とうとう湖水の中におっこってしまった!」
千二は、驚きとも喜びともつかない声をあげた。
それっきり、かの怪物体は見えなくなった。天狗岩も、また元の闇の中に消えてしまった。
「ふうん、今のは夢じゃなかったかな」
千二は、自分の顔をつねってみた。痛かった。たしかに痛かった。では、夢ではない。
千二は、鉄管をはい出した。もう大丈夫だろうと思ったから。
果して、もう大丈夫であった。さっきのように、気分が悪くなりはしなかった。するとあの毒気のようなものは、やっぱりあの怪物体からふきだしていたものにちがいない。
「湖水の中におっこって、どうしたかな」
千二は、そろそろ天狗岩の方へ、にじりよって行く。
うす桃色に光っていた怪物体が、天狗岩の上から姿を消すと、つづいて起る大きな水音! 千二少年が、暗闇の中を這って天狗岩に近づいたのは、その怪物体が、どうなったかをたしかめるためであった。多分この怪物体は、湖水の中に落込んだものと思われた。
千二は、もう天狗岩の上に来ていた。
彼は、そこで懐中電灯をともした。
「さっきは、このへんに怪物体が立っていたんだが……」
そう思って、岩の上を見ると、果して岩の上は大変に壊れていた。岩層《がんそう》がすっかり出てしまって、あたりにはその破片が散らばっていた。
千二は、びっくりしたが、自ら気をひきたてて、天狗岩の先の方まで這って行った。
その岩の鼻のところは、別に何ともなっていなかった。苔もむしていたし、風化をうけて岩肌はすすけたようになっていた。
「さあ、この下の淵《ふち》に何が見えるか。気が遠くならないように、お臍《へそ》のところに力をいれなくては……」
と、千二少年は、はやる気をおさえ、二、三回おなかをふくらませたりまた引込ませたりした上で、天狗岩の鼻先に腹ばいになった。そうして下を向いて淵をのぞきこんだが、何だか、ぶつぶつと泡の立つような音がするだけで、何にも見えない。そこで彼は、また懐中電灯をつけて、はるかの水面に光をあてて見た。
「やっぱり、なにも見えやしないや」
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