までも入れる。香の物は、なるべくたくさんの種類がはいっているのがいいそうである。
ぽっぽっと、湯気の立つ皿の上をながめて、彼は、まだ食べない先から、盛に、ごくりごくりと唾をのみこんでいる。
こうして用意がすっかり出来る。そこで彼は大きなため息を二つ三つして、はじめて瀬戸物製の大きなスプーンを左手に握るのである。彼は、左ききである。
「ああ、これゃ熱くて、口の中が火になるぞ!」
彼は、頬をふくらませて、皿の上にもうもうと立昇る白い湯気を、ふうっと吹き、そうして山のように盛上ったライスカレーへ、左手に握った瀬戸物のスプーンをぐさりと突立てるのである。あとはただ夢中で、馬のように食う。――これをやると、佐々の頭は、急にたいへんによくなるそうである。
当人はそれでいいが、迷惑をするのは机を並べている同僚だ。なにしろ、これだけのカレー料理を、佐々は自分の机の上で作るのである。誰がなんと言っても、彼は、断然自分の机の上で作る。そのために、彼のカレー料理が始ると、捜査課の中は、カレーのにおいがぷんぷんする。時には、警視庁の建物全体がカレーくさくなる。
佐々刑事の自席料理のため、恐るべきカレーの毒ガスが、警視庁のどの部屋といわず、どの廊下といわず、はいこんでいくのであるから、これまで幾度も問題になった。
だが、当人は、何と言われようと平気であった。この特製のカレー料理を食べると、元気が出て頭がよくなる。その結果、犯人を早くつかまえることが出来る。そうなれば、警視庁のために喜ばしいことである。だからライスカレーの手製はやめられない。――というのが佐々刑事の言分《いいぶん》であった。
とにかく彼は、だれからなんと言われても、一向気にしないたちだった。そうして思ったことを、どんどんやっていく。だから、成功することも多かったけれど、失敗することもまた多かった。
失敗したときは、彼はちょっとはずかしそうな顔をして、自分の首すじを平手でとんと叩く。が、いつまでも悲観しているようなことがなく、間もなく猛犬のように立ちあがる。そうして目的へ向かって突進する。機関銃の弾丸みたいな男であった。
佐々刑事のことを、私はあまり長く書きすぎたようである。
大江山課長の机の上に置いた青い鞭のようなものを見て、
(それは、火星の化物の遺失物だ!)
と言った佐々の言葉は、たしかにあたっていた。
その青い鞭のようなものは、大江山課長が、天狗岩の附近から拾って来たものであるが、全くめずらしい品物なので、果して火星の生物が、天狗岩のところへ来ていたとすると、それが落していった、と考えると、一応話のつじつまが合うのであった。
だが、火星の生物の遺失物であるのはいいとして、それがどんな用につかわれる品物か、それがよくわからない。
火星の生物が、天狗岩の附近に落していった青い鞭のようなものは、一体何に使う品物か、謎を秘めたまま大学へ送られることとなった。
つまり、大学へ持っていって、材料や形などから、それがどんな用に使われる品物かを、研究してもらうためだった。
大江山課長は、一通りの報告を終えたあとで、次のような注意を、部下一同に与えた。
「はじめ、蟻田博士が、火星の生物に注意をしろとか、火星兵団というものがあるから気をつけなければいけないなどと言出した時には、私は、何を言うかと、実は、博士を気が変な人あつかいにしていたが、その後、つづいて起ったいろいろの怪事件――と言うと、千二少年が天狗岩で会った怪塔・怪物事件、怪人丸木が銀座でボロンを買うため殺人を犯した事件、それから千二の父親千蔵が、見て大怪我をしたという火柱事件などであるが、それらの事件を通じて、よく考えてみると、どうもこれは何かあるらしいのだ」
と言って、課長は、あらためて、部下一同の顔を、ずっと見廻した。一座は、しいんとなって、課長の口から出て来る稀代の怪事件に関する、一言一句も聞きもらすまいとしている。
大江山課長は、言葉をついで、
「確かに、何かがあるのだ! 果して、これは火星の生物か、火星のボートかわからないけれど、とにかく前代未聞の怪しいものが、東京附近へまぎれ込んだことだけは、疑う余地がない」
課長は、そこで、溜息をついて、
「それでわれわれは、ここで一大決意を固めなければならないと思うのだ。それは、一日も早く、この前代未聞の謎をつきとめることだ。この解決の近道は、目下行方不明の怪人丸木を逮捕することにあると思う」
大江山課長は、重大決意のほどを、部下一同に語りつづける。
「もう一度言う。この際一日も早く、怪人丸木を捕えよ。そうして、捜査に当っては、仮に火星人なるものが、我々の住んでいるこの地球へ紛れこんでいるものとして、ぬかりなく用意をととのえるのだ。これまでに次々と起っ
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