わるくてしかたがなかったが、王城内の火星人は、なかなか礼儀もこころえており、また新王や副王からの言いつけもあって、千二たちに対し、たいへん、ていねいにしていた。
 千二は、このとき、ふと、たいへんなことを思い出したのであった。彼は、新田先生のそばへよると、小さいこえで、
「あのう、先生。もう時刻は、すぎたのではないでしょうか」
「なんだね、時刻がすぎたとは」
「先生、わすれているのですか。モロー彗星が地球に衝突する時刻は、もうすぎたのでしょう。地球は、どうなったでしょうか。こなごなになって、それから……」
 千二は、そのあとが言えなかった。そうして悲しくなって、思わず先生の胸に、あたまをうずめてしまった。
「そうだねえ、地球は……」
 先生も、そのあとが、言えなかった。
 すると、蟻田博士が、この有様を見て、二人のそばへ、よって来た。
「お前たちは、なにをめそめそやっているのかね。ロロ新王に、おめでとうを言う日が来ているのに、泣いたりして……」
 先生は博士に言った。
「千二君も私も、地球のことを思い出して、悲しくなったのです。今ごろは、地球はモロー彗星のために、粉々になって、宇宙に飛んでしまったろうというので……」
 すると博士は、はたと手をうち、
「おお、そのことか。わしは、君たちに、言うのを忘れていたよ」
 地球は、一体どうなったか。
「博士は、私たちに、なにを言われるつもりだったのですか。なにを言うのを、わすれていられたのですか」
 新田先生と千二とは、蟻田博士に、息をはずませてたずねた。
「ああ、そのことだ。よし、わしが言うよりも、ロロ新王にねがって、王城の天文台へのぼらせてもらって、地球がどうなったか、それを見せてあげよう」
 博士は、心得顔で、すぐさま、ロロ新王に、そのことを言った。ロロ新王はもちろん、それを承知した。
「じゃあ、天文台へ、のぼらせていただこう。まあ、それまでは、だまって、ついて来たまえ」
 博士は、なかなか地球の最期について、二人に話をしてくれない。
 千二たちが、博士について、天文台の方へいくために、王城の広間を横ぎって、歩いていこうとしたとき、博士の前に、とつぜんとび出して来たものがあった。
「蟻田博士の大うそつき」
 大きなこえで、その怪漢は、どなった。
 見ると、それは、めずらしや、佐々刑事であった。彼は、とつぜん王城の中へ、
前へ 次へ
全318ページ中315ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング