丸木艇は、なかなかスピードが出るなあ」
「先生、佐々刑事はどうしたのでしょうか」
と千二は、ふと、佐々刑事のことを思い出した。
「ああ、佐々刑事か。あの人は、どうしたろうな」
と、新田先生も、佐々刑事のことを思い出して、望遠鏡から、目を放した。
いつだか、佐々刑事あてに無電を打ったけれど、一向へんじがなかった。
「先生、あの人は火星の宇宙艇にのっているはずですが、べつに用意もしていないから、火星についても外に出られないでしょうね」
千二は、前からそのことを心配していたのだ。
「さあ、そのことだよ。火星は、空気がうすいから、そのままでは外に出られないわけだ。成層圏をとぶ時のように、酸素吸入器をつけて、下におりるより、仕方がないだろうね。そのままでは、酸素が足りなくなって、たおれてしまうだろう」
「そうなると、佐々刑事は、いよいよ気の毒ですね。きっと困っているのでしょうね」
ひょっとしたら、佐々刑事は、火星へついたはいいが、そこで一命をおとしたのではないかと、千二は、そこまで思ったけれど、それは言うのをひかえた。新田先生が、また心配をするといけないと思ったからであった。
「先生、地球はどうなったでしょうね。それから、大江山隊は、どうしたでしょうね」
「おお、そのことだよ。火星へいくことばかりに気をとられていて、地球のことは、わすれていた。大江山隊は、どうしたろうなあ」
そこへ、博士がはいって来た。
「なにを話しているのか」
「大江山隊のことを思い出して、心配していたところです」
「ああ、大江山突撃隊のことか。あれなら心配なしだ」
「はあ、心配なしですか。どうなったのか、博士は、ご存じですか」
「大江山隊は、とうとうがんばって、火星の宇宙艇群を撃退したよ。わしはちゃんと、それを見て知っている」
「博士はいつ、それをごらんになったのですか」
大江山突撃隊が、火星兵団を撃退したのを、博士が見たというので、新田先生がふしぎがった。
「わしは、そういう大切なものは、けっして見おとさないよ。君のように、いつもびくびくはらはらしていたのでは、すぐ目の前に起きていることさえ、気がつかんだろう」
博士は、先生にとって、いたいところをついた。だが博士と先生とを、一しょにして言うことは、先生がかわいそうである。博士はなにもかも知って知りぬいているし、新田先生は、知らないことば
前へ
次へ
全318ページ中277ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング