かな。一挺お前にわたしておく。これは十号ガスを発射するガスピストルだ。あまり遠くへはとばないよ。まず百メートルが関の山だ」
「百メートル? 百メートルなら使いものになりますよ」
 新田先生は嬉しそうな顔で、博士からもらったガスピストルを握って、しきりに胸のところへ持って行ったりして、早く一発撃ってみたそうである。
 それを見て博士は言った。
「だめだめ。こんなところで、そのピストルを撃ってみても、こわれるものは一つもありはしない。それよりも、これからわしと二人で、火星兵団の奴を追いかけて、ためしてみようではないか。支度をしたまえ」
「えっ、ためしに火星人を撃ってみるのですか」
 先生は、嬉しいような、こわいような気持になった。
 博士の方は、そんなことには一向お構いなしに見えた。
「さあ、すぐ出かけよう。ついて来たまえ」

 と言ったかと思うと、はや部屋をずんずんと出て行ってしまった。先生は驚いてその後を追いかけたが、博士の姿は見えない。地下から地上へ出る階段をかけ上って見たが、博士はどこに行ったか見えない。
 そこで先生は、もう一度階段を下りて、もとの部屋へ引返そうと後へふり向いた。とたんに「あっ」と叫んだ。
 驚くのも道理、いつの間に忍び寄ったか、そこには、黒装束の火星人が立っていたのだった。
 先生はぎょっとした。いつの間に、火星人がこんなところまで、はいって来たのであろうか。全く、ゆだんもすきもあったものではない。
「博士、火星人がここにいます」
 先生は、ぱっと身をひるがえして駈出しながら、博士のうしろを追いかけた。
「わ、は、は、は、は」
 と、火星人は大声で笑った。
 先生は、もうだめだと思った。そこで、博士からあずかった十号ガスのピストルを、火星人の方へ向けて、
「さあ、これを食《くら》って往生しろ!」
 と言うなり、引金を引いた。
 ぱさっと音がして、ガスピストルはガスを撃出した。
 黄いろい煙があたりに広がった。
「わ、は、は、は、は」
 火星人は煙の中から笑う。
「しまった!」
 先生は、もう一度、ガスピストルの引金を引いた。
 ガスは、またばさっと音がして、火星人の方へ飛んで行って、もうもうと広がった。
「もうよせ、もうよいよ。わ、は、は、は、は」
 と、十号ガスの中で、火星人は苦しそうに笑いながら叫んだ。

 十号ガスでまいらない火星人だ!
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