える黒いものは何だ」
「え、ああ、あの黒い点のようなものか。風船でもなさそうだが、事によると……」
 と、首をかしげているうちに、空中に浮かんでいる黒い風船のように見えた黒点は、見る見る大きく広がり出した。
「あっ、火星兵団だ!」
「うん、やっぱりそうだったか。おい、火星兵団の大襲来だ!」
 と言っているうちに、その大きく広がった黒い斑点の中には、さらに小さい粒々の黒点が、たくさん集っていることがわかり、襲来した火星兵団の宇宙艇の数は二、三百だということがわかった時には連合脱出隊のロケットは完全に針路をおさえられてしまった。そうして次の瞬間には、火星兵団の宇宙艇隊は、ロケット隊のまん中を刺貫《つら》ぬくように飛込んで来た。勝ち負けは、その瞬間にきまってしまった。
 せっかく力を合わせて編成した連合脱出隊のロケット五百台は、火星兵団のため、空中に全滅してしまった。
 この悲報は、全世界を打震わせた。
「今度は、大丈夫だと思っていたのに……」
「あれでいけなかったら、われわれ地球人類は、絶対に火星人に降服する外はない」
「もっと早くから、対火星戦を、考えておくんだったな」
 と、各国の責任者たちは、無念の涙をはらはらと落しつつ、この惨敗のあとをふりかえった。
 ロケットに乗せて貰えない連中は、ロケットが、地上から飛出していくたびに、自分がいつまでたっても、地上に取残されていることを不満に思い、飛んでいくロケットのあとをうらめしそうに、そうしてうらやましそうに見送ったものである。ところが近頃になっては、彼らはもうそのような、うらめしそうな目附はしなかった。それは出ていくロケットというロケットが、ことごとく火星兵団のため空中でとけてしまったり、地上に追帰されたからである。彼らはニュースにより、うまく地球から脱出したロケットが、まだ、ただの一台もないことを、はっきり知ったからである。
 打続く火星兵団の勝利! そうして地球軍の惨敗。
 しかも、モロー彗星は、そんなことにはおかまいなく、刻一刻と地球に近くなって来た。
 地球の上には、こうして二重の苦難がおおいかぶさって来たのである。地球と地球人類とは、もはや、自分たちの『死』を覚悟しなければならない時が来たように見える。
 だれか、この大危難を救う者は出てこないであろうか。救世の英雄の足音は、まだ少しも聞えないようである。
 
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