、このように、めちゃめちゃにくずれている。だから、博士はどこへ行ったことやらわからない。とにかく、こんなところに博士がとどまっていないことは、たしかであろう。
 先生は、深夜にせっかくここまでやって来たが、こんなわけでかなり気を落した。こうなれば、どこか別のところを探しに行くより外に仕方がないと思った。が、しかし、何か博士の行方について、手がかりになるようなものが落ちていないかと、あたりを見まわした。
 その時、先生の目にとまったものがある。
「おや、これは、後から掘りおこした穴のようだ」
 先生の足もとには壁がくずれて、コンクリートの塊や木材が、ごたごたと折重なっていたが、そのコンクリートの塊の間に、人間がくぐれるくらいの穴があいていたのである。それは、ちょうどくずれおちた屋根の下になっていて、遠くから見たのでは、穴のあいていることがわからない。先生は俄に元気をとりもどした。
(ひょっとすると、この穴の中に誰かが、かくれているのではなかろうか)
 そう思って、新田先生は、からだをかがめると、穴の中の様子をうかがった。
(おや、何だか、穴の中で、かすかに人のこえがするようだ)
 先生は、耳をすました。
 穴の中からもれて来る話声は、たいへんかすかであった。新田先生は、全身の注意力を耳にあつめて、それを聞きとろうとつとめた。
 だが何を話しているのか、先生にはよく聞きとれなかった。ただ、その話声は、かなり深い地底から聞えてくるものであるらしく思えた。それにしても、不思議な話声ではある。
(どうも日本語ではないらしいぞ。一体誰が話をしているのであろうか)
 先生は、二重の不思議にぶつかった。
 穴の中へはいって行こうとは思ったが、中から聞えるのが、日本人の話声でないことがわかると、たいへん気味が悪くなって、はいる決心がつかなかった。
 その時、新田先生は、ふと心の中に思い浮かべたことがあった。
(まさかとは思うが、あるいは……?)
 と、持っていた変話機を耳にあててみたのである。すると、どうであろう、穴の中の話声が、たちまち日本語にかわったのである。
(あっ、やっぱりそうだった。中にいるのは火星人だったのだ!)
 先生のおどろきは、たとえようのないくらい大きかった。くずれた蟻田博士邸の下に、火星人の話声がしている!
 先生は、変話機をかたく、にぎりしめて、地下から聞えて
前へ 次へ
全318ページ中178ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング