人の一人に、胸ぐらを取られて、びっくりした。
「こら、らんぼうし給うな」
 と、先生は彼の手を振りはらったが、彼はしっかと握って、放さなかった。その時、先生は火星人の手が、まるで鋼鉄の棒のように固くて、そうして冷たいのを知っておどろいた。
 そのらんぼうな火星人は、先生をなぐりつけるつもりか、一方の手を振上げた。その時、火星人の腕のつけねに妙な音がした。ぎりぎりぎりと、何か歯車で鎖を巻くような音だった。
「何をするっ」
 先生は、必死になってそれを防ぎながら、火星人の目を見た。
 火星人の目は、じっと遠いところを見つめているようであった。ガラス玉のような、うつろな動かない目であった。
 そのくせ、火星人の腕はのびて、先生の頭をめがけて、はげしくうちおろすのであった。
「あっ!」
 先生は、受損じて、頭が割れたかと思った。そうして、ふらふらと倒れそうになったので、先生は前後の考えもなく、火星人の胴中《どうなか》に抱きついた。
 すると、火星人はあわて出したようであった。そうして急に弱くなって、ごろんとその場に倒れた。
 新田先生は、火星人を下に押さえつけたまま、ふうふうと苦しい息をはいた。何かどなりつけてやりたかったが、あまりに息切れがはげしくて、声を出そうにも、声が出なかった。
 下になっている火星人は、両手、両足を動かして盛にもがいた。
 ひゅう、ひゅう。ぷく、ぷく、ぷく。
 火星人は、妙な声をあげてうなった。
 新田先生は、この時火星人の体について、重大な発見をした。
 それは、ひゅうひゅうぷくぷくと言う声が、火星人の口から出ていないで、のどのあたりから出ていることだった。
 先生は、おどろいて火星人の、のどを見た。すると火星人の首は、もう少しで、肩から外れそうになっていた。
 やっぱり、首なしの生き物なのだ。火星人は――。
 ひゅうひゅうぷくぷくの声は、首と肩とのつぎ目のあたりから、もれて来るのであった。
 首の外れる生物! 首なしの生き物!
 そんな不思議な生物が、この世の中にあっていいものか。
 気がついて、先生はもう一度火星人の目を見直した。
 目は相かわらず、ガラス玉のように遠いところを見つめていた。そうして少しも動かないのであった。まるでつくりものの目だ。
 火星人の、のたうち廻るのを押さえつけながら、先生は苦しい息の下に、なおも敵の体に気をつける努
前へ 次へ
全318ページ中143ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング