先生の失敗に終る!」
荒鷲の巣へしのびよって、巣の中の卵へ、いよいよ手を、にゅっとのばした猟師のように、新田先生の顔は、一生けんめいな気持で真赤になっていた。
ぼうん、ぼうん、ぼうん……
いよいよ柱時計は九時をうち出した。
すると、新田先生は、急に、梯子から、どかどかと下りた。そうして、時計の下の壁ぎわにぴったりと体をよせ、なおも鳴りひびく怪時計の音に、注意ぶかく聞入った。
ぼうん! ついに時計は、九時をうち終った。
その時、柱時計の下で、壁にぴったりと、からだをよせている新田先生のはげしい興奮の顔!
また入口の扉を背にして、何事が起るかと、目をみはっている千二少年の顔!
ぎいーっ、ぎいーっ。
床下にあたって、歯車か何かが、きしる音!
「ううむ……」
と、新田先生はうなった。
ぎいーっ、ぎいーっ。
「あっ、床が……」
千二は、思わず驚きの声をあげた。
「しっ!」
新田先生が、叱りつけるように叫んだ。そうして、両眼を皿のようにして床を見つめている。
見よ! 床が、動いているのだ!
秘密室の床が、真中のところで二つに割れて、しずかに左右に分れていく。そうして、その間から、まっくらな床下の穴が見えて来た。だんだんと、そのまっくらな四角な穴は広がっていく。
千二少年は、息をつめて、それを見ていた。なぜこうして、床が、動きだしたのであろうか。
新田先生は、ついに、二つの柱時計の謎をといたのだった。一方の時計を三時までうたせ、それからもう一方の時計を九時までうたせると、それが組合わせになって、この床を左右に開く仕掛が働き出すのであった。つまり、そのように二つの時計を鳴らさせるということは、錠前を鍵ではずしたことにもなり、また、床を動かす仕掛のスイッチを入れることにもなるのだった。これが蟻田博士が、この部屋に仕掛けておいたすばらしい秘密錠なのだ。
動いて、割れる床!
蟻田博士の秘密室には、こんな思いがけない仕掛があったのだ。博士は、床に錠前をかけておいたのでは、合鍵などをつかって人にあけられるのを恐れるあまり、こうした暗号のような仕掛をつくっておいたのだ。
床は、いつしか、動かなくなった。ぎいーっ、ぎいーっという歯車のきしる音も、今は聞えなくなった。そうして、だだっぴろいこの秘密室の床の上には、まん中のところに、ぽっかりと四角な穴が取残され
前へ
次へ
全318ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング