よ。まるで西洋の大魔術みたいなものですからねえ」
いつの間にか、佐々刑事が、前へ出て来て、あたりはばからぬ大きな声をたてた。
「不思議だ」
課長は、一言、また不思議だと言った。そうして、とんとんと、机の上をたたきつづける。
「この大魔術に、なんという名前を、つけますかねえ。ええと、秘法公開、空中消身大魔術! どうです。なかなかいい名前だ」
佐々刑事は、ひとり喜んでいる。
「不思議だ!」
と、課長は、また言って、頤《あご》の先をつまんだ。
「だが、この世の中に、種のない大魔術は、あるはずがない。そうだ、この事件なんか、とても怪人丸木くさいところがあるぞ」
課長は、すっくと、立ちあがった。
「怪人丸木ですって?」
一同は、言合わせたように、声をそろえて、丸木の名を言った。
「そうだ。運転をしていたのが、怪人丸木で、運転台に乗せられていた少年が、千二であった――と、こう考えてみるのも、魔術であろうか」
「えっ、千二少年に怪人丸木!」
と、一同のおどろきは、再び爆発した。事件が、また再び、千二少年の行方のところへ戻って来たのであった。
「そうだ。あいつなら、魔術ぐらいは、使うであろう。だが、使わば使え。魔術の種を、こっちでもって、あばいてやる。きっと、その魔術の種をつきとめるぞ」
課長は、例の自動車の墜落事件を、丸木のやった魔術だと、きめてかかった。たしかにそれは誤りではなかった。怪人丸木のやった仕事にちがいなかったのだから。課長はいかにして、その魔術をとくであろうか。
課長は、車を命じた。
恐しい自動車惨事のあった崖下は、警官によって守られていた。
まっくらな夜を、火がもえていた。
まだ、惨事の自動車がもえつづけているのかと思われたが、そうではなくて、焚火であった。あたりを警戒するためと、そうして惨事の現場を照らすためだった。
焚火は、すぐそばを流れている小川にうつって、火が二段に見えた。
大江山課長は、部下をしたがえて、焚火の方へ近づいた。
そこを守っていた警官が、やっと気がついて、課長の方へ、さっと手をあげて敬礼をした。
「やあ、ごくろう。崖の上からおっこちた自動車というのは、これかね」
「はい、この縄ばりをしてあるのが、それであります」
「ふん、ずいぶん、ひどくなったものだね。もとの形が、さっぱりわからないくらいだ」
「そうであります。
前へ
次へ
全318ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング