のだった。
河合少年の祈りが神様のお耳に届いたせいでもあったろうか、さしもの大椿事《だいちんじ》も、ようやくにおさまった。あの耳をうつ震動音の響もいまはどこへやら。また怪物のようにひゅうひゅう飛びまわった火の玉の塵塊も、今は姿を見せなくなった。そして艇は、以前のように安全状態に戻ったのであった。
「おーい。生きている者は、こっちへ集ってこい」
「おう、今行くぞ」
乗組員の呼び声が、ぼつぼつ聞え始めた。それはたいへんお互いを元気づけた。
河合少年は、もう大丈夫だと思ったので、自分の身体を巻いていたロープを解き、自由になった。久し振りに床を踏んだが、足はふらふらで、その場に尻餅をついてしまった。
「おうい、河合少年、しっかりしろ」
誰かが彼に呼びかけた。
誰だろうと、声のする方を見上げると、それはマートン技師だった。彼は横に傾いたまま、舵輪を握って、艇の針路を定めていた。
「ああ、マートンさん。怪我はなかったんですかねえ」
「ああ、何ともないよ。どうだ恐ろしかったか」
「ええ、びっくりしましたよ。で、本艇はだいぶやられたようですか、無事に飛んでいるのですか」
「さあ何といっていい
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