乗って、同じ速さで飛んでみよう。もし急いでこの宇宙塵の渦巻を突切ったりしようものなら、本艇はものすごい塵塊に衝突して、火の玉となって燃えだすであろう。しばらくは我慢する外《ほか》はない」
 博士は、忍耐の時間がきたことを、マートン技師に説明した。
 こうして二時間ばかりを、本艇は何事もなく至極《しごく》平穏《へいおん》に送ったのであった。その間に、火星の表面は、すこしばかり西へ位相を変えた。火星の極冠は、いつも眩《まぶ》しく、一つ目小僧の目のように輝いている。その他のところは、或いは白く、或いは黒く見えているが、黒いのは多分陸地で雪のないところにちがいない。そしてその陸地はいくつも点々として存在しそして蜘蛛《くも》の巣のように、直線的なものでつながれているように見える。火星の運河というのは、そのことであろうが、果して運河であるか、どうか、それはもっと先にならねば分らない。
「あっ、四象限《よんしょうげん》へ舵一杯!」
 突然、老博士が叫んだ。と同時に、操舵席のマートン技師の前に、赤い警告灯がつき、そしてその下を、電光ニュースのように数字の列が流れた。
「はいっ、四象限へ舵一杯」
 と、
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