ね。一人の学者の寿命は百年とまで永くないのに……」
ネッドが笑った。が、マートン技師は、これに応えていった。
「そうじゃない。そんなに永くかからなければわからない大仕事だから、学者たちは責任がたいへん重いのだ。そして一日でも一時間でも早く自然科学の謎をとかねばならぬと、一所けんめいに努力しているんだ。本当に、尊い人たちだといわなければならない」
マートン技師はそういって、非常にまじめな顔をした。
その日をはじめとし、少年たちは毎日一度展望室へ入って、大宇宙をのぞくことにした。そこから見える大宇宙は、いつも暗黒で無数の星がきらめいていることに変りがなく、別に夜が明けるわけでもなく、変化にとぼしい眺めであった。だが少年たちは必ずこの部屋へ入った。彼等の見たいと思うものは、第一に、遠去かり行くなつかしい地球の姿、第二に、だんだん近づく火星の様子であった。
「河合君。あと二日でいよいよ宇宙塵の間を本艇が抜けるそうだよ。本艇はそのとき穴だらけになっちまいやしないだろうか」
「なあに大丈夫だろう。デニー先生もマートンさんも平気な顔をしているもの」
「そうかしら……それから君は、火星には人間が
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