ういった。この言葉から思うと、マートンはデニー博士の同情者であるらしい。
「デニー博士は、この宇宙艇に乗っているんですね」
「そうだ。さっき椿事《ちんじ》を起こしたとき、先生のところへ行って、危険が迫っていますから早く外へ出て下さいとすすめたが、先生は“お前たちこそ逃げろ。わしはどうあっても艇からはなれない”といって、避難することを承知せられなかった」
「するとデニー博士は、この艇と運命を共にせられる決心なんですね」
「先生は、何十年の苦労を積んだあげく、この艇をつくられたんだ。だからこの艇は自分の子供のように可愛いいのだ。そればかりではない。この艇のことについては自分が一番よく知っている。だから椿事が起れば、その際最もいい処置をなし得る者は自分であるという信念をもっていられる。だから、先生はこの艇に残っておられるのだ」
デニー博士は、もう老いぼれた学者で、もっと悪いことに、気もへんであるし、出来もしない火星探険をするといっている山師の一人だという評判であったが、このマートン技師の話によると、それはまちがいのようである。
「じゃあ、このまま飛んで火星まで行ってくればいいですね」山木が
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