エンジンはうまくなおりましたか」
「だめなんだ、河合君」マートンは肩をすくめて見せた。
「エンジンは、まるで馬のようにスピード・アップしている。この調子でゆけば、第一倉庫にある原料が全部使いつくされるまで、エンジンを停めることはむずかしかろうね」
 ひどいことだ。どこまでも飛びつづけるしかないのだ。しかも舵がきかなくて、思う方向へも向けられない。つっ走るとはこのことだ。
「すると、今われわれの宇宙艇は、どの方向へ飛んでいるんですか」と河合が尋ねた。
「真東へ飛んでいる。黄道の面と大体一致しているよ。かねてわれわれが計画しておいた方向へは走っているんだがね」
「われわれが準備しておいた方向というと」
「火星に会える方向のことさ。でも三週間ばかり早すぎたよ」と、マートン技師は事もなげにいった。
「ほう、そうですか。この宇宙艇はやっぱり、火星へ行くように準備してあったんですか」
 山木も、いまさらながらおどろいた。
「そうだとも、デニー先生は、今年こそそれを決行する考えでおられた。もちろんこれは反対者も多かったがね。とにかく先生はお気の毒な方だ」
 と、マートン技師は、しんみりとした調子でそ
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