「いや、それもだめだ。舵を曲げようとしても、さっぱりいうことをきかないそうだ」
「うわあ、それじゃ絶望じゃないか」
 いくらさわいでみても、宇宙艇が地上へ引返す様子はなかった。そればかりか、原子エンジンは、ますます調子づいて、艇の尾部からものすごいいきおいで瓦斯を噴射するので宇宙艇の速度はだんだんあがって行く。時速二千キロが、三千キロになり、四千キロになり、今や時速四千五百キロの目盛を越えようとしている。
 地球へ帰りたい一心で、危険とは知りつつ落下傘で艇外へ脱出した者も三人あった。四人の少年は、大人ほど取乱してはいなかった。はじめはちょっとおどろいたが、まもなく少年たちは窓の外に見られるめずらしい下界の風景にうち興じて、恐さも不安も知らないように見えた。
「愉快だね。え、あの青いのは太平洋だね。カリフォルニアの海岸線が、あんなにうつくしく見えている」
 山木は、誰よりも一番元気がいい。
「僕は、一度飛行機に乗ってみたいと思っていたが、空を飛ぶっていいもんだねえ」
 ネッドは、窓枠に頬杖をついて、緑色がかった絨毯《じゅうたん》のような下界を飽かず眺めている。
 張は無言。河合は鉛筆を握
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