う一つ、牛が割合に耐えたよ。その次の実験には、マスクを牛に被せた。すると更によく耐えることが分った」
「R瓦斯というのは、どんな瓦斯ですか」
「R瓦斯は、火星の表面に澱《よど》んでいる瓦斯の一つで、これまで地球では知られなかった瓦斯だ」
「毒瓦斯なんですね」
「地球の生物にとってはかなり有毒だ。しかし火星の生物にとっては、R瓦斯は無害なんだ。いや彼等にとっては棲息するために必要な瓦斯なんだ、ちょうどわれわれが酸素を必要とするように……」
マートン技師が、そういって話をしているとき、別の部屋の扉が開いて、別の青年がとび出して来た。そしてマートンを見るなり、絶望的な声を出して叫んだ。
「遂に失敗だ。この宇宙艇は地球へ引返すことを断念しなければならなくなった」
地球へ引返すことを断念しなければならない! すると、これから一同はどうなるのか。天空を、あてもなく彷徨《さまよ》うのか、それとも火星か月世界かへ突進むことになるのか。それにしても宇宙旅行は、たいへんな年月を要する。乗組員の生命は、それを完成するまでもつであろうか。食糧は、燃料は?
さらば地球よ
「たいへんだ。もう地上
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