うして送りに来たのに……」
「いけない、いけない。出発の時刻が来たら堂々と扉をひらいて出ていって見せるから」
「ふうん、気をもたせるねえ。出発時刻は正確なんだろうね」
「ぜったいに、正確だ。九時|零《れい》分だ」
「よし皆。もうすこしだとよ、待っていよう」
中では二人のほっとした溜息《ためいき》がきこえた。その頃、ようやくフェンダーも直り、イグニションもどうやらきくようになった。あとは車体のぬりかえであった。
「おい、まだ残っていた。ヘッド・ライトがついていない」
「ああっ、そうか」
自動車がヘッド・ライトをつけていないとどうにも恰好《かっこう》にならない。車体のペンキ塗りは後まわしにして、二人はいやに重いヘッド・ライトの取付にかかった。
「おい。おい、もう時刻が来たぞ。扉をあけてもいいか」
「まだまだまだ、待て待て。もうすこし待って居れ」
「戴冠《たいかん》式の自動車でもこしらえているつもりなんだろう。あんまりすばらしい自動車を見せて、僕たちをうらやましがらせるなよ」
「わかっている、わかっている」
ヘッド・ライトが取付けられると、あとは出発の時間まで五分しか残っていなかった。
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