ふたたびスパナーを取上げた。
 ほんとうに、その夜は修理にかかってしまった。二人は油だらけになって一睡もとらず暁を迎えた。しかしまだ修理はすんでいなかった。フェンダーを直し、イグナイターをやりかえねばならなかった。その上に車体をペンキで塗りかえる予定であった。二人は朝飯もたべずに工事を急いだ。
 そういう二人の気持も知らずに、二人のうるさい友だち連中は、早朝から集まって来てこの大自動車旅行の出発を見ようというので大さわぎをしていた。
「この辻を通るという話だったが、まだ通らないじゃないか」
「まだ一時間と十九分あとのことだよ。出発はかっきり九時だからね」
「そんなに時間があるのなら、あいつらの家へ行った方が面白いじゃないか」
「うん、それがよかろう」
 一同はうち揃って、ぞろぞろと山木と河合の住んでいる洗濯店《せんたくや》の裏手へ集ってきた。
 だがそんなところに二人はいないことが分った。そして彼らは、牧場の壊れかかった小屋の方へ、わいわいいいながら流れていった。
 面くらったのは山木と河合だった。小屋の扉をぴったりと中からおさえて、誰一人入らせまいとした。
「ちょっと見せろよ。折角こ
前へ 次へ
全163ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング