「ペンキぬりをする時間がありゃしないよ」
「困ったなあ、この恰好じゃ仕様がないよ。箱の横腹にいっぱい牛の絵がついているんだものねえ」
「でも、出発の時刻をくるわせることはできないよ。困ったねえ」
外からは小屋の扉をどんどん叩く。その音がだんだんはげしくなって、もうすぐ扉が壊れそうであった。
「仕方がない。これで行こうや」
「えっ、そうするか」
「こうなったら心臓だ、さあ、早く修理道具を集めて車にのっけてしまおう」
遂に待ちに待った小屋の扉が左右にひらかれた。前に集まっていた二十何人の友だちは一せいに歓声《かんせい》をあげた。自動車は小屋の中から、がたがたと音をさせて外に姿をあらわした。河合がハンドルを握り、その横の席で山木が一生けんめいに愛嬌《あいきょう》をふりまき、皆にあいさつのため帽子をふった。
「なあんだ、この間まで道傍にえんこしていた牛乳配達車じゃないか」
「あっ、すげえや。こんな大きな牛の絵をつけて、グランド・カニヨンまで行くのかね。あっちの犬に吠えられてしまうぜ」
「とんでもない戴冠式のお召し車だ」
山木も河合も、弁慶蟹《べんけいがに》のように顔を真赤にして、はずか
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